門前仲町。下町の温もりと都会の気配が交差するこの街に、またひとつ、新しい火が灯った。
その名は『jiü』。テーマは「薪焼き」。アミューズからメインに至るまで、どこかに必ず薪のエッセンスを盛り込む。ただし、すべてを薪香に包むわけではない。時に直球、時に変化球。緩急をつけたアプローチが、薪という素材を単なる演出に終わらせない。

空間に立ち込めるのは、薪の香りだけではない。3フロアを駆け回るスタッフたちの若さと熱気。オープンキッチンにはエネルギーが満ち、料理だけでなく、空気ごと“火”が通っている感覚すらある。かつてグランメゾンで培った技術はそのままに、門前仲町という土地柄に合わせて親しみやすさを纏ったその姿勢には、プロデュース元の『渡辺料理店』との確かな共鳴を感じた。
まずはアミューズから。
「燻製桜鱒のタルタル」
軽やかな薪の香りをまとった桜鱒のタルタル。土台はクラッカーのような軽い食感で、サクッと小気味よい。酸味を効かせたクリームソースとキャビアが添えられ、華やかさとコクをプラス。薪の香りがふわりと広がり、味覚だけでなく鼻腔まで心地よく満たしてくれる。
「フォアグラのテリーヌ 薪ミニドライトマト」
ブリオッシュのようなふんわり生地に、濃厚なフォアグラのクリーム。そこに薪で乾かしたミニトマトの酸味がピリリと効いて、全体を引き締める。薪がここでも静かに香りを演出している。
「蛍烏賊 燻香ポムピューレ 菜の花」
春の使者・蛍烏賊が、燻製香の効いたマッシュポテトと共演。ポムピューレの甘みと菜の花のほろ苦さが、春の訪れを知らせる。

次に、スープ。
「ポタージュサンジェルマン 帆立」
グリーンピースの甘みが際立つポタージュ。帆立の優しい甘みが重なり、青さが爽やかに鼻に抜ける一杯。

オードヴルの幕開け。
「鰆 アスパラガスと空豆 土佐文旦」
鰆を薪で香ばしく炙り、アスパラガスや空豆とともにサラダ仕立てにした一皿。マヨネーズやマスタードのソースが、料理全体にコクと軽やかな酸味を与え、親しみやすさを演出している。しその香りを纏ったマイクロハーブが爽やかに香り、土佐文旦のフレッシュな酸味が春の息吹を感じさせるアクセントに。薪の香ばしさと、野菜の瑞々しさが絶妙に溶け合う。

「シェーブルリゾット 焼きブロッコリー」
薪で香り付けしたブロッコリーと、新ごぼうの食感が楽しい一皿。旬のシェーブルチーズのほのかな酸味が、リゾット全体を軽やかにまとめ上げる。

「フォアグラのポワレ 新玉葱」
個人的にこの日、一番印象に残った一皿。濃厚なフォアグラに、新玉葱のピュレが優しく寄り添う。表面はカリっと、中はとろり。薪焼きの香ばしさが後からふわりと押し寄せ、力強さと繊細さが共存する。

魚料理へ。
「オマール海老 ホワイトアスパラ」
ローストされたオマールは弾力を保ちつつ、じゅわっと甘みが溢れる。ホワイトアスパラも甘く、コクのあるオマールソースとよく絡む。薪の香りを纏わせた泡のミルクソースが、全体に優しいタッチを加えていた。

肉料理はシェアスタイルで。
「NZスプリングラム」と「フランス ビゴール豚」
これぞ薪焼きの醍醐味。骨付きラムは表面を香ばしく、中は瑞々しく仕上げる。しっかりとしたラムの風味を残しながらも、薪の力でクセを旨みに昇華。フォン・ド・ヴォーとしいたけのソースが深みを加える。これは火入れの妙技。豚肉は、甘みと薪香のコンビネーションが心地よい。脂の甘さが舌にじんわり広が流。

デザートタイムへ。
「千葉県柏市の蕪のアイス」
口に入れればすっと溶け、シェフの出身の柏産の蕪の甘みがじわじわと広がる。下部には蕪の葉のソースを忍ばせて。

「リュバーブ 苺 薪ミルクソルベ」
薪香を纏ったミルクソルベが、リュバーブと苺の甘酸っぱさを包み込む。薪のテーマがデザートまで貫かれていることに驚かされる。

「コーヒーとお茶菓子」
最後は灰をイメージしたマカロンなど、薪焼きの世界を遊び心で締める。小菓子も気を抜かないのが嬉しい。

薪焼きという明快なテーマを掲げながらも、単調に終わらせない。薪から煙、そして灰へと──テーマを広げながら、多彩なアプローチで料理を組み立てていく。確かに「薪」という軸に貫かれている。だが、それを感じさせないほどに自由で、豊かな世界観を描き出す。そこに宿るのは、グランメゾン仕込みの技術とセンス。しかし過度に技巧を誇示することなく、マヨネーズやマスタードを忍ばせた親しみやすさで、むしろ自然体の魅力を引き出していた。
門前仲町という街に寄り添いながら、確かにここにしかない光を放つ。また、新しい火がこの街に加わった。ご馳走様です。
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jiü
東京都江東区富岡1-1-3
https://tabelog.com/tokyo/A1313/A131303/13307278/