2026.01.14 夜 蕎麦前に確信し、蕎麦で深まる@蕎麦おさめ そば 池袋~高田馬場・早稲田 5000円〜9999円 ★★★★☆ 目白の住宅街に静かに暖簾を掲げる『蕎麦おさめ』。店名は料理人・納剣児氏の名をそのまま冠したものであり、料理そのものが彼の表現。元は別の地に店を構えていたが、ここ目白に拠点を移した今も、変わらぬ美意識と緊張感が空間を満たしている。控えめな佇まいの中に、しっかりと芯の通った職人の哲学が宿る。 席に着いてまず感じるのは、料理屋としての仕事の丁寧さ。蕎麦前に供される品々は、いずれも繊細で品良く、蕎麦屋という枠を超えた完成度を見せる。この日は「サーモンの刺身」と「枝豆」の二種盛り、 そして「にしんの旨煮」。どれも過度な装飾はなく、素材の持ち味を静かに引き出している印象。 酒は「十四代 中取り大吟醸」。クリアな甘みと柔らかな含み香が、食中酒としても格別のバランスを見せていた。 さらに、この日はメニューには載らない「鴨ロース」が運よく用意されていた。厚みのある切り身はしっとりとした艶を帯び、ひと口で鴨の力強い旨味が広がる。火入れも絶妙で、脂の甘みと赤身のコクが自然に溶け合うような仕上がり。添えられた柚子胡椒の香りが、後味を静かに引き締めていた。 「玉子焼き」は特筆すべき完成度。ふわりと空気を含んだ焼き上がりに、出汁の旨味がしっかりと滲み、口に含むとじんわり広がっていく。添えられた大根おろしもあるが、醤油をかける必要すら感じない仕上がりで、この一皿だけでも料理人の力量が伝わってくる。 そばは一連の流れで完結している。「そばがき」は粗挽きの在来そば粉を用い、ふんわりとした口当たりと香り高さが印象的。塩を添えるだけで素材の力が際立ち、そば本来の姿を先取りするような構成になっている。 続く「せいろ」は、福井・永平寺在来の蕎麦を使用。むっちりと太めの麺がざるにこんもりと盛られ、その姿だけで期待が膨らむ。噛むたびに香りが立ち、喉越しはすっと抜けていく。店の要はこの“在来種の蕎麦”。全国各地から実の旬を見極めて仕入れ、店内で必要分のみを自家製粉。品種改良を経ていない原種に近い蕎麦は、香りも味も濃く、力強い。 つゆはやや濃いめで、そばの甘みとしっかり噛み合う。塩とつゆ、それぞれで異なる輪郭が楽しめる。締めには白濁タイプのそば湯が供され、余韻を静かに整えてくれる。 『蕎麦おさめ』は、蕎麦だけで勝負していない。料理も酒も含めて、一つの流れとして成立している。構成に無理がなく、自然体の中に計算された流れがある。全体に美しさがあり、心地よい緊張感がある。肩肘張らずに訪れながら、食の芯をしっかりと楽しめる、そんな一軒。目白にこういう店があるということに、少し誇らしさすら覚える。ご馳走様でした。 — 蕎麦おさめ03-6908-2362東京都新宿区下落合3-21-5https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130502/13283508/