2025.05.17 昼 食材は風景である——美山荘120年の答え@美山荘 日本料理 京都市 10000円〜29999円 ★★★★☆ 京都・花背、深山の奥に佇む一軒。『美山荘』——それは単なる料理旅館ではない。明治28年、峰定寺の宿坊として始まったこの宿は、以来120年以上にわたり“自然とともにある食”を体現してきた。料理の軸は「摘草料理」。目の前に広がる新緑、川のせせらぎ、山々に咲く草花。それらすべてが、食材であり風景であり、物語なのだ。 冒頭を飾るのは「開茶(あけび茶)」。わずかに土の香りを含むその味は、この地の空気そのものを味わうような感覚を与えてくれる。テロワールという言葉がもてはやされる昨今だが、ここではすでに100年も前から、この土地ではこの湯呑みで提供してきたそうだ。 「八寸」は、美山荘の真骨頂。蓬の苦味、空豆団子の甘味、鹿肉パテの旨味、沢蟹と納豆の塩気。地元で採れた山菜や川魚を組み合わせたこの一皿は、“摘草”を知るための体験装置のよう。すべてに土の香りと命の輪郭がある。 白味噌仕立ての椀物には、桑の葉や繭団子が添えられ、桑の葉のオイルが加えられ、澄んだ味わいに薬草的な清涼感が広がる。向付には、兜造りにされた鯉が登場。鯉のぼりを模した付け合わせが添えられ、見た目にも楽しい一皿。薬味には垣通しが使われ、爽やかな風味が刺身の旨味を引き立てる。 「石焼味噌と山菜」は、熱した石で味噌の香りを立たせ、猪肉のコクと木の実の甘みを合わせる。火と山の恵みが同居する、まさに“土地の物語”。 「大手長海老」では、たんぽぽの花やイタドリの酸味が香り、 「鹿肉と嫁菜」は、行者大蒜とマカダミアナッツのアクセントが力強さを添える。 凌ぎの「蕨饅頭」には鰻と山葵酢が隠れ、遊び心と野趣が共存する。 焼物の「あまご 木の芽酢がけ」、 炊合せの「淡竹と春草」、 土鍋で炊いた「板若布と山独活のご飯」——いずれも手を加えすぎず、素材の“輪郭”を大切にしているのが印象的。 デセールも例外ではなく、「菖蒲のグラニテと枇杷ゼリー」は、清涼感と薬草的な余韻が繊細に重なる。 最後に供された「蓬餅」は、すべてを静かに包み込むような、余韻のひと口だった。 この日は当主・中東久人氏へのご挨拶は叶わなかったが、その哲学は、提供された料理の一皿一皿から確かに伝わってきた。四代目として、西洋と東洋の知を行き来しながら、美山の山中で新たな摘草料理を育て続けている。中東家が代々紡いできた自然との対話は、今も静かに、けれど確かに進化している。 静かな時間が心に優しく、摘草料理が体に優しい。そんな場所で、自然とともにある一食を味わってみてほしい。ご馳走様でした。 — 美山荘075-746-0231京都府京都市左京区花脊原地町大悲山https://tabelog.com/kyoto/A2601/A260504/26001066/