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2015.11.06 夜

静けさが味覚を研ぎ澄ます。全神経で向き合ってたどり着く味。@虎屋 壺中庵

日本料理

徳島・鳴門

10000円〜29999円

★★★★★

佐那河内村。一瞬ドキっとしませんでしたか?聴覚障害を装ったどなたかのお名前とそっくりなんです。風評被害がなかったことを切に願います。

この村、徳島市内から車で走ること40分ほど。目に見えるのは闇、耳に届くのは雨音のみ。大自然の一部になったような錯覚が芽生えます。神社の薄明かりの隣に1つだけ火を灯す建物がある。

『虎屋 壺中庵』である。日本料理界の重鎮にして吉兆の創業者である湯木貞一氏の弟子。現在京都の『未在』の石原氏とも兄弟弟子の岩本氏がご主人。30年も前に実家の旅館を改装して作ったそうだ。

最初は「ワタリガニのお浸し」薄味。それが素材に忠実ということか。味を探すために神経が集中していく。そこから旨味がゆっくり広がっていくのだ。咀嚼の音さえ響き渡るほどの静けさが保たれる。同じ膳にのった「カラスミの和え物」は日本酒へと誘う。

続いて、「鯖の棒鮨と銀杏餅」棒鮨もあっさり。しかしすぐには飲み込んじゃダメ。じっとり味が舌に到着するのを待ちましょう。昆布の力を見せつけられます。銀杏餅は新食感。

「お吸い物」の中身は、車海老、松茸、蓮根もち。いずれも徳島産。大自然のプレゼントです。車海老と松茸の出汁のみを抽出したような味。シンプルであることが逆に深みを形成する。そして、このレンコンを覆う衣はなんなのだろう。もはや片栗粉や小麦粉の部類ではない。出汁を吸い尽くしたのだろうか。旨味の塊として記憶される。

「お造り」は、鯛、車海老、烏賊。車海老らしい透明度はとても美人肌。チリ酢でいただく。烏賊の包丁も実に繊細。京都が香ってくるようです。こちらは昆布塩で。

焼き物は「甘鯛」の登場。香りが鼻の中に全速力で侵入していき、脂の照りが眩しい。やはり旬の強みなのだろう。身の強さも折り紙つきです。水菜にかかったスダチの酸味とも相性が抜群。

美しい。感嘆の声が漏れてしまった「鮎と栗のあんかけ」。鮎の渋味と栗の甘さのコントラストが堪らない。これもまた素材の特徴を最大限に引き出す。「鮎のうるかと茄子炒め」はやはり日本酒と合う。

箸休めの「柿なます」。柿の甘味と膾の酸味が握手。さっぱりさが前面なので食事前の小休止。

最後を飾るのは、「鱧と松茸の丼」おそらく今年最後の鱧になるでしょう。それが、ここ壺中庵だなんて幸せな秋を過ごせた。終わりよければすべて良し。

いやぁ、緊張感がありました。雑踏ではいろんな神経を使ってるのでしょう。味覚がいつもよりも研ぎ澄まされていた実感がある。その味覚に全神経を集中することで初めて壺中庵の味にたどり着く。そんな気がした静かな夜でした。


虎屋 壺中庵
088-679-2305
徳島県名東郡佐那河内村上字井開1
https://tabelog.com/tokushima/A3601/A360104/36000369/

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