2026.01.12 昼 前橋で時間を重ねてきた鰻@古久家 鰻 前橋・高崎 3000円〜4999円 ★★★☆☆ 群馬・前橋の街中、生活道路沿いに佇む鰻屋『古久家』。外観は控えめで、いかにも老舗然とした構えではないが、長くこの場所に在り続けてきたことは自然と伝わってくる。暖簾をくぐると、空気が一段柔らかくなり、そこに広がるのは“店”というより、古民家に遊びに来たような感覚。畳の座敷、低い卓、重ねられた座布団。きちんと整え込むというより、人を迎え入れてきた時間がそのまま残っている空間だ。創業は戦前、80年以上の歴史を持ち、現在は三代目店主が暖簾を守る。 予約の時点で「特上うな重」はお願いしてあった。席に着き、空間にすっと馴染んだ頃合いで運ばれてきた重箱の蓋を開けると、まず立ち上がるのははっきりとした香ばしさ。焼きの工程でしっかりと火を入れていることが、視覚より先に香りで伝わってくる。一方で口に運べば方向性は蒸し。身は箸を入れた瞬間にすっとほどけ、とろとろとした食感が前に出る。脂は重さを残さず、舌の上で静かに広がっていく。 皮目はしっかり残っていて、噛めばそこに鰻らしいコクと香りがある。とろっとした身の中で、この部分が味と食感の芯になっている印象だ。タレの存在感はかなり強めで、継ぎ足しらしい濃さと香ばしさが前に出るタイプ。その分、ご飯はかなり硬めに振られており、粒感をはっきり残す設計になっている。タレに負けないための選択だとは思うが、個人的にはやや主張が強い印象も。とはいえ、鰻・タレ・米それぞれの輪郭は明確で、全体としての方向性は一貫している。 一緒に供される「肝吸い」も、この店の立ち位置をよく表している。澄んだ出汁に肝のほろ苦さが穏やかに溶け込み、主張は控えめだが、うな重の余韻を受け止めるには十分な存在感。主役を立てることに徹した、実直な一杯だ。 ここで感じるのは、長い時間の中で育ってきたものだ。空間も、鰻も、タレも、この場所で日々続けてきた結果として、今の姿になっている。前橋という街の中で、無理なく、違和感なく、そこに在る。その事実だけで、この店の立ち位置は十分に伝わってくる。ご馳走様でした。 — 古久家027-221-2977群馬県前橋市本町2-11-6https://tabelog.com/gunma/A1001/A100101/10006048/