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2025.05.11 昼

ダウンタウンに、名門の余韻が滲む場所@KOTARO Hasegawa DOWNTOWN CUISINE

フレンチ

上野・浅草・日暮里

10000円〜29999円

★★★★☆

“DOWNTOWN”——その言葉を、ここでは迷いなく「下町」と訳すべきだろう。

台東区・新御徒町の一角にある『KOTARO Hasegawa DOWNTOWN CUISINE』には、下町らしいやさしい空気が漂っている。力みのない空間、丁寧で穏やかなサービス。けれど、ひとたび皿が運ばれてくれば、その印象は静かに覆される。だって、料理を手がけるのは“あの”ひらまつ出身のシェフなのだから。

長谷川幸太郎氏。名門「ひらまつ」で総料理長を務めた経歴を持つ。技術と経験だけでなく、生産者との信頼関係も深く築き上げてきた人物。今は自身の名前を冠したこの店で、そのすべてをやさしく、しかし確かなかたちで表現している。料理は全体を通じて“静かに強い”。クラシックなフレンチの技法をベースにしながら、味の設計や余韻にはどこか和の感性が滲む。出汁のようにじんわりと染みる滋味。皿の上にあるのは、押しつけがましさのない「本気」だ。

春の始まりを告げるのは「初鰹のマリネ」。トマトベースのスパイスソースが程よい酸味と辛味を添え、ボッコンチーニのまろやかさ、ちこりの清涼感が全体を軽やかに整える。バジルの香りがふわりと抜け、春の香気を食卓に運ぶ一品。

「アッシュ・パルマンティエ」は、本来は挽肉とジャガイモを重ねたグラタン的料理。ここでは足赤海老と鮑が主役で、海の旨味をじんわりと滲ませる。上層は甘くなめらかなジャガイモのピュレ、蓋をするのはチュイルで焼き上げた薄焼きの花。まるで“春の菊”。器には松と梅の絵付けが施され、料理と器が静かに共鳴している。

「鴨のフォアグラとアスパラガスのフリット仕立て」は、コースの中盤に差し込まれるアクセント。濃厚な脂の旨味をキャラメリゼで閉じ込めたフォアグラに、上質な天ぷらのような軽さのアスパラ。ソースとパルミジャーノ、微かなにんにくの香りが重なり、奥行きのある構成を生んでいる。

「白甘鯛の鱗焼き」は、皮目はパリッと香ばしく、身はふっくら。下に敷かれたとろける大長茄子が、魚の旨みを吸収する。白ワインソースにはキャビアの塩気が加わり、まろやかさとメリハリが共存する一皿。器は伊万里を思わせる錦手。やはり盛り付けと器が交錯し、ひとつの絵画のようだ。

「仔牛のパイ包み焼きとリードヴォーのソテー」は、クラシックフレンチの王道。サクッと焼き上げられたパイの中には、ロゼ色に火入れされた仔牛と、ジロール茸のデュクセル。添えられたリードヴォーはミルキーで香ばしく、濃厚なクリームソースと絡めれば、もう一つの主役として成立してしまう。重厚なのに、軽やか。これもまた、この店の特徴だろう。

デザートは「ホワイトチョコのムースとマンゴー・アプリコットのパルフェ仕立て」。グラスの上に咲いたチュイルは、まるでガラス細工の花。なめらかなムースに、果実の酸味と甘みがバランスよく重なり、最後まで飽きさせない設計。盛り付けの繊細さもあいまって、最後にもう一度、ため息がこぼれる。

全体として、“響き合う料理”という表現がぴったりだ。フランスの技法と、日本の器。濃厚さと軽やかさ。季節の移ろいと、生産者の想い。どれもが真っ直ぐに組み合わされ、皿の上で調和している。そして、これだけの完成度のコースが、驚くほど良心的な価格で提供されている。価格がすべてではないけれど、この内容でこの価格なら、再訪したくなる理由には十分すぎる。下町にあって、洗練を忘れず。クラシックを踏まえながら、今を映す。『KOTARO Hasegawa DOWNTOWN CUISINE』は、そんな“東京のもう一つの姿”を丁寧に見せてくれるレストランだ。ご馳走様でした。

KOTARO Hasegawa DOWNTOWN CUISINE
03-5826-8663
東京都台東区台東4-2-11
https://tabelog.com/tokyo/A1311/A131101/13229542/

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