薪焼の和食、薪焼の焼鳥、新しい火の料理の提案を続ける末富信氏。
今回提案する火は「焚き火」だ。麻布十番に新しくオープンした『膳処末富』のカウンターの先に見えるのは焚き火。もちろん暖をとるためではなく、料理の熱源として使われます。末富氏が徐に火入れを始めた食材は空芯菜。炒め料理の定番だが、藁焼きの要領で素材に火を入れていく。ここに塩を加えただけのシンプルな料理が登場するのだが、薪と香りがビビッドに吸着している。なるほど、焚き火は火入れだけでなく香りづけが目的なのか。
末富氏は最近はプロデュース業に力を入れていた印象だが、膳処末富ではカウンターに立つ。曰く、ここが料理を作る最後の舞台になるとのこと。それだけに、彼が学んできた全てがここに詰め込まれている印象だ。集大成である。
例えば、麻布十番にあった「さかなや富ちゃん」のエッセンス。そう、末富氏のお父様のお店である。鰹のたたきに使われた玉葱ソースは、その時代のレシピを踏襲したものだ。ちなみに、鰹こそ藁焼きが定番だが、ソメイヨシノの薪で火を入れるのだが、やはりその香りが素材に吸着していきます。
例えば、「肉匠堀越」で肉を学び、「鈴田式」で火入れを完成させたヒレの丼もそう。これにおいては、なんと玉葱を使って火入れ。炭化させて火種を作るのだ。咀嚼しているうちに、その甘味がほんのりと漂ってくるかのようです。面白い。
例えば、「新神戸」で驚かせた鶏と薪の組み合わせ。しかも、新神戸では提供していない「つくね」を持ってくるあたりの演出が憎い。ちなみに、今度は竹の香りを纏わせる。
締めの食である「炊き込みご飯」も今や新神戸の定番。内容は松茸と牛肉で、やはり薪自体と一緒に炊き上げております。旨味たっぷりなオイリーなニュアンスは牛脂によるもの。いい意味でのジャンク感が作られております。
もちろん、新しい名物も生まれている。最後に、個人的なお気に入りの2品を紹介させていただきます。1つは、薪焼きのタン。ウイスキーの樽で焼いたもので、そのピート香が食材に宿ります。このニュアンスがハイボールと驚くほどのマリアージュを実現します。
もう1つが「薪うどん」。薪の薫香を纏ったうどんはそのままでも十分なほど美味。
食事が終わった後は照明を落として、焚き火を見ながら談笑タイム。ゆらゆらと揺れる火を見ていると心が安らぎますね。焚き火は料理の熱源や香りづけだけでなく、癒しの演出にも一役買ってくれました。末富氏の新提案、焚き火料理に注目です。
その他、料理のラインナップはこちら。
「キタアカリ」3年熟成のじゃがいも。いくらと共に。
「鱧椀」利尻昆布のニュアンスが強い。昆布がちで旨味の強いお椀。
「帆立のセビーチェ」木の芽のニュアンスの酸味とばっちりの相性。
「キノコとキノコ」マッシュルームとキノコの濃厚ソース。
「茄子」出汁の煮浸し
「レタスと牡蠣のソース」牡蠣のソースでディップして食べるイメージ。
「柿の白和え」
「百合根」
「ババロア」やはり燻製香たっぷり。
「金萱茶のアイスクリーム」最後はさすがに薪の香りなしのスッキリな味わい
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膳処末富
東京都港区三田1-10-16
https://tabelog.com/tokyo/A1307/A130702/13275869/