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2015.10.29 夜

生と死。破壊と創造。今宵はディナーではなく芸術作品を見た!@81

スペイン料理

六本木・麻布・広尾

10000円〜29999円

★★★★☆

建物に足を踏み入れた瞬間から、もう「81」のシェフである永島ワールドの中にいる。現代アートの美術館のコートヤードのような空間。

玄関スペースはオープンな作りで、ウェイティングルームである「81」の観客全員が集まるのを待つ。あえて観客と表現したことは最後までお読みいただければ伝わるはずだ。

鑑賞可能な人数は12名のみ。人数が揃って初めて劇場のある2階へと向かう。まずは、階段をあがった小部屋で支払いを済ませる。お金のやりとりは劇場の中では無粋な行為だ。ウェルカムシャンパンを片手に座席に向かう。

席はコの字。主役が観客ではないことがレイアウトが伝えてくれる。

すべての席が特等席。コの字のレイアウトはすべて角度から平等に公演に望むことができる。

そして、この空間。およそレストランの空間作りからは程遠い。真っ暗な空間、真っ黒なレイアウトなどある意味「死」を感じさせる。テーブルの石などは墓石と同素材のものだそうだ。「死」が強調されるほど、反対に「生」が強調されていく。ある意味、食事とは「生」あるものの「死」を通じて、我々の「生」につながる。まるで生きとし生けるもの全ての存在の真理を本能的に説明しているようだ

扉が開くと無機質なほどに清潔感のあるキッチンが目に飛び込む。キッチンと観客席が一瞬で融合し、映画の幕が開いたように空間に色がつく。それを合図にしたように、演者達が一斉に1つめの料理が届けてくれる。

「落ち葉の抽象表現」皿の上に秋が横たわる。落ち葉のように、なるほど写実的な形態ではなくあくまで抽象的な表現。色が本能的に落ち葉の印象で飛び込んでくるが、食感までも同じ印象を持たせる。

素材はポテトと生ハムで表現。食べ物を使ったアートのようです。ポルチーニのスープは土を意識した一品。そう、この日のテーマは「森」。深く深く森を進んでいきます。

「チョコレートでコーティングされたフォアグラのテリーヌ」ドン・ペリニヨン 2005のために用意された二口サイズのスナック。左半分に塩。こちらからいただくように永島シェフのタクトがふられる。

強さと優しさを表現しているそうです。ドンペリが違う味になるから不思議だ。

「カルボナーラの再構築」破壊と創造、つまり生と死。これこそ81のコンセプトが集約された一品。カダイフ(小麦粉で出来た細麺状の生地)の上にゆで卵。一目瞭然だが、これは言うまでもなく「鳥の巣」である。「生」が生まれる直前だ。

ゆで卵を破壊すると白トリュフの香りが空気中に広がる。底にはペコリーノロマーノチーズとクリームがあり、スプーンで混ぜ合わせる。この破壊活動の結果として、新しい概念のカルボナーラが完成するのだ。まさにカルボナーラの再構築。

これだけの物語が1つの料理で展開するのだ。料理のコンセプトが涙腺が緩んだのは初めての体験だ。

「森の湖」静岡県浜名湖のスッポンのスープ。冬眠を始める前のもので最もスープに相性がいいそうだ。味が全てここに。生姜の香りの心地よさが美しい湖を連想させる

「5種のきのこのソテーのリゾット」森をストレートに表現した一品。蓋のついたボトルを開けると黒トリュフの香りが広がる。

土の香りというか生命力の香りを表現したのだろうか。

そして、五種類のキノコのソテー。食べるたびに食感や味が違う。同じものには出会うことがない。これは自然が生む芸術性の表現だ。リゾットの食感はまるで雨上がりを示しているようです。また雨も生命と直結するエッセンスである。

「秋鮭のポワレといくらと梨」森を深く進むと現れるのは川。泳ぐのは秋鮭。この魚の選択も81らしい。産卵と引き換えに死を受け入れる個体。

鮭はエスプーマで覆われる。この下では左から右の身に対して塩の流良さを調整しているそうだ。素材の持つ脂を計算してのこと。余談だが、この調理法を生んだのは世界一のレストラン『エル・ブジ』の料理長。永島シェフはここでの修行経験を持つ。決してエンターテインメント優先の店ではないのだ。

いくらが時間差で登場するのも物語性の演出なのだろう。

親子という表現ではなく、やはり生と死といったほうがしっくりくる。

「鴨のロースト じゃがいものピュレ コーヒーのパフ」嗅覚を刺激する演出。これにはまいった。燻製の秀でた点は香り。鴨を燻製するのではなく、香りだけを劇場に作り出したのだ。シェフの思考回路の底が見えません。低温調理の鴨を燻製の香りで食べる、この経験は初めてだ。

「ティラミス」最後を飾るデザート。若土のようなコーヒーに若葉のようなローズマリー。香りも楽しめる一品は、息吹きたての生との出会いのようだ。

こんな森であれば迷子になってみたいもの。現実世界に戻るのが名残惜しい。それほど深くこの永島ワールドに引き込まれた。これを書いている今も鮮明に森の光景を思い出すことができる。

料理人、演出家、脚本家、エンターテイナー、プレゼンター、いったいシェフの肩書きは何なのだろうか。その全てが当てはまり、その全てが当てはまらない。規格外のアーティストとしか表現できない。まだ成長を求めるアーティストは、次に会うときには誰も止められないモンスターになっているかもしれない。

次回は1月。


81
080-4067-0081
東京都港区西麻布4-21-2 コートヤードHIROO
https://tabelog.com/tokyo/A1307/A130703/13186404/

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