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2025.12.22 夜

五感でなぞる風土。@レストラン ナズ

フレンチ

軽井沢・佐久

50000円〜

★★★★★

軽井沢の深く静かな空気に包まれる『レストラン ナズ』。地元・軽井沢内での移転を経て、料理・空間・体験のすべてがひとつ上のフェーズへと昇華された印象。建築士である奥様とともに設計された新たな空間は、料理の世界観と歩調を合わせるように、静かで凛とした佇まいを見せる。そこに立ち上がるのは、テロワールの記憶を料理に写し取るという意思。風土、季節、時間。目に見えないそれらを、五感で捉え直す場だ。

その思想の象徴とも言えるのが、信州サーモンを主軸に据えた二皿のスペシャリテだ。ひとつは、3年半かけて育てられたサーモンをドライエイジングでさらに凝縮し、発酵蕪とトマトのソースを重ねた構成。香り、酸、旨味が滑らかに折り重なり、時間の蓄積をひと口の中で感じさせる。

対となるのは、3年熟成の奈良漬を添えたシンプルな一皿。構成は極限まで抑えられているが、サーモンの脂と奈良漬の酸が香りとして響き合い、余韻には静かな深みが残る。ひとつは構築、もうひとつは削ぎ落とし。異なる手法で、同じ素材の輪郭を浮かび上がらせていた。

冒頭に登場する一皿にして、すでにこのコースの語り口が明確に現れていた。中心にあるのは「里芋」。高温のフリットではなく、じっくりと低温で揚げ、ねっとりとした質感と芯に残る水分を巧みにコントロールしている。そこに巻かれるのは、1年間白カビで熟成させた峰村牛の生ハム。脂の甘みと熟成香が芋の滋味と静かに重なり、香りの中心には黒胡椒が淡く漂う。過不足のない構成が、すでに『ナズ』らしさを物語る。

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合わせるペアリングは、苺をトマトウォーターのように抽出した液体。甘さを削ぎ落とし、高麗人参や根菜のようなニュアンスを滲ませている。口の中に残る土のような余韻が、芋と生ハムの香りと静かに呼応していた。

長野の風土を一皿に凝縮したような料理。主役は、希少な伝統野菜「綿内蓮根」。炭火でじっくりと火を入れ、ほくっとした甘みとシャキッとした食感の両立が見事。これに合わせるのは、おぼろ状にした八島豆腐と、純血種の黒豚のバラ肉。豆腐のなめらかさと豚のコクが白和えに溶け合い、エゴマと木の芽が香りの輪郭を引き締める。構成は素朴ながら、風味の層が深い。

手打ちの蕎麦は、朝、シェフ自らが打ったもの。

冷たく引き締められた麺に重ねられるのは、すり鉢で滑らかにしたブロッコリーのソース、3日寝かせて燻したフグ、そして海苔を叩いて香りを纏わせたコーティング。さらにフレッシュなキャビアを一粒添え、塩味の輪郭を精密に決めている。ブロッコリーが蕎麦の青さを支え、海苔と燻製香が静かに押し上げ、キャビアが後味にわずかな緊張を与える。ソースに角はなく、アタックから余韻までの香りと味の展開が、計算し尽くされていた。

月輪熊の肉を主役に据えた、滋味深い土鍋仕立て。柔らかな甘みをたたえた熊肉に、酒粕のコクと米のとろみが重なり、ほのかな発酵の香りとともに身体に染み入るような味わい。天然のセリが青さを添え、黒七味が香りに奥行きを与える。構成は素朴で静かだが、素材の持つ野性と発酵の優しさが混ざり合い、複雑さよりも深さを感じさせる一皿だった。

朝締めの合鴨に、発酵させた野沢菜を合わせたメンチカツ。仕留めて一日しか経っていない鴨肉は、鮮度の高さゆえに柔らかく、香りはクリア。そこに野沢菜の酸と発酵香が調味料のように作用し、揚げ物でありながら油で食べさせない設計になっている。さらに、野沢菜はパウダーとしても使われ、香りの立ち上がりを補強。自家製のデミグラスソースが全体をつなぎ、中心はレアの火入れで肉の旨味がダイレクトに伝わる。形は素朴でも、組み立ては驚くほど緻密。これはちょっと、うますぎた。

井戸の湧き水で育てられた鯉を、丸ごと一尾――身も骨も内臓も血までも――余すことなく使ったラーメン。スープは、火入れを繰り返すことで雑味を旨味へと変換し、鯉の生命力そのものを受け止めるような濃度と厚みを持つ。ラーメンという親しみのある器に収められてはいるが、内容は極めて本質的。命に向き合う視線と、それを美味へと昇華する技術が、静かに一体となっていた。

が儚く、乾燥させた花粉のクランチが食感と香りのアクセントに。甘味の中にある酸味と青さが、最後の一口に軽やかな余韻を残す。そして、締めのヘーゼルナッツのタルト。使われているのはナッツとバターのみ、小麦粉不使用。素材の油分と香りを凝縮したような力強い焼き上がりで、シンプルな構成だからこそ香ばしさと深みが際立つ。デザートまでも、料理と同じ美学で貫かれていた。

ひと皿ひと皿に込められたのは、精緻な構成と、静かに研ぎ澄まされた香りの設計。そのすべてが、土地の記憶や空気を背景に、過不足なく整えられていた。情報量の多い料理でありながら、ひとつとして過剰にならず、すべてが軽井沢の空気に自然と馴染んでいく。力強さよりも、静かな洗練。その積み重ねが、食後の時間まで美しく保ち続けていた。ご馳走様でした。

レストラン ナズ
0267-46-8840
長野県北佐久郡軽井沢町追分138-1
https://tabelog.com/nagano/A2003/A200301/20028578/

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