大阪の路地裏に構える『NH』。最初に通されるのはウェイティングルームだ。そこに並ぶのはエルメスのクッション。単なる装飾ではなく、複数を効果的に配置することで空間全体にラグジュアリーな予感を漂わせている。食事の前のわずかな時間でさえ、特別な演出の一部として成立しているのだ。

その奥に待つのが、やはりエルメスによる特注の扉。非日常の入口にふさわしい装置のような存在で、特に女性客のテンションを一気に引き上げる。扉を抜けて階段を上がる高揚感が、そのままレストランフロアへとつながっていく。階段を登りきった先に広がるのは、宇宙船を思わせる未来的なレストランフロア。器やインテリアに至るまで徹底された統一感があり、洗練と遊び心が共存する。ここでの食体験が、ただの食事ではなく特別な体験になることを誰もが予感するだろう。

料理全体を眺めれば、まず印象に残るのは香りの華やかさだ。ハーブや柑橘を積極的に取り入れ、どの皿も爽やかで艶やかなニュアンスを纏っている。ビジュアルも彩り豊かで、まるでハイブランドのショーケースのように皿が舞台を演じている。その背景にあるのは、シェフ自身のキャリア。フランスで長く腕を磨いた経験が、料理の基礎を確かなものにしている。骨格はクラシック、そこに香りや彩りといった現代的な装飾を重ねる──そんな哲学が皿の上で息づいている。
「アミューズ」は小さな舞台装置のよう。甘海老のチップで甲殻の旨味がガリッと弾け、富山の甘海老らしい濃厚さが一気に広がる。鴨のコンソメが奥行きを与え、竹炭のチュイルに忍ばせたフォアグラのムースは、ピスタチオで重さを和らげてくれる。さらに瞬間燻製のフォカッチャにマスカルポーネ、ブレザオラと但馬牛が加わり、塩気と燻香でインパクトを刻む。

「トマト」はクラシックをひねったカプレーゼ。マリネやジュレ、エスプーマといった異なるテクスチャーを重ね、自家製のモッツァレラが清涼感を添える。複数のミニトマトが甘味や酸味をそれぞれ主張し、バジルの香りが全体をまとめ上げる。

「キャビア」は青さと清涼感を前に出した一皿。オシェトラとカルーガを食べ比べ、アスパラのムースが柔らかさを加える。周囲には柚子ジュレやミントのジュレが散りばめられ、サラダのように構成されている。キャビアの塩気と柚子の酸味が寄り添う瞬間は心地よいが、ハーブの青さが前に出るため、評価が分かれるところだろう。

「毛蟹」はデザインの妙でデザートのように現れる。周囲を彩るのはすもも、中央には毛蟹の旨味を凝縮したチャイル、そしてアイスクリームやエストラゴンの香り。軽やかさを与える一方で、蟹の余韻を切ってしまう場面もあり、好みが分かれそう。だが、このギャップこそシェフの狙いかもしれない。

「シャンピニオン」。ここは誰もが唸るハイライトだろう。20〜25種類もの国産茸を用い、イタリア産トリュフを重ねたロワイヤル仕立て。茸のソテーやピューレが層をなし、秋トリュフの芳醇な香りが全体を包み込む。まるで森の湿度を閉じ込めたかのような奥深さで、完成度は抜群。

「オマール・ブルー」はブルターニュ産を主役にした一皿。スペルト小麦でリゾット仕立てにし、ナッツのエスプーマが香ばしさを加える。そこにオレンジのフレッシュさが差し込まれ、濃厚な旨味と軽快な余韻のバランスを取ろうとする意志を感じる。

「白甘鯛」は和歌山から。鱗焼きの香ばしさが主役で、スープ・ド・ポワソンが土台を支える。フェンネルオイルが清涼感を与え、パプリカを詰めたズッキーニの花が皿全体を華やかに演出する。食感、香り、色彩すべてで楽しませる。

「七谷鴨」は二週間の熟成を経て登場。胸肉はしっとりと旨味が凝縮し、茄子の中にはモモ肉のミンチが隠れている。赤ワインを想像させる濃厚さだが、塩気や火入れは端正で、クラシックの安心感に遊び心を加えた一皿。

デザートの口火を切るのは「メロン」。ブランデーとバニラの香りをまとわせ、みずみずしさを少し大人びた表情へと引き上げている。軽やかでありながら余韻に色気を残す仕立て。

「マンゴー」は遊び心に満ちた一品。カクテルのミモザを意識したジュレを重ね、アイスやフレッシュマンゴー、クレームダンジュを組み合わせたパフェ仕立て。そこに山椒を忍ばせ、甘味にピリッとしたアクセントを与える。華やかさの中に小さな驚きが潜んでおり、最後まで気持ちを掴んで離さない。

締めくくりの「ミニャルディーズ」は小菓子のアソート。細部まで抜かりなく、余韻を清潔に保ちながらコースを閉じる。

総じて『NH』は、まさにハイブランド的な食体験を演出する舞台。ウェイティングのクッションから特注の扉、階段を上がった先の未来的な空間まで、すべてが仕掛けとして繋がっている。料理はクラシックを土台に香りや彩りで現代的に装飾。好みの分かれる一皿もあるが、ここでしか得られない体験になる。ご馳走様でした。
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NH
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