北新地の夜、大きなカウンター越しに薪や藁の香りが立ちのぼる。ここは『トムクリオーザ』。浅井勗武(つとむ)シェフが、名門ポンテベッキオで17年修業を重ねたのち、2013年に独立して立ち上げたレストラン。店名はシェフの愛称「トム」と“好奇心”を意味するイタリア語「Curiosa」の掛け合わせ。2023年に北新地へ移転し、炎と香りが舞台装置のように織り込まれた空間に進化。浅井シェフの料理は、その名の通り「好奇心」を刺激する連続劇であり、客をひとつの物語へと巻き込んでいく。

まず押さえておきたいのが、この店を象徴するスペシャリテ。代表格は「ペルシュウ(24ヶ月熟成の生ハム)」。日本で唯一パルマハム職人資格を持つ多田昌豊氏が手がける逸品を、カウンター越しにベルケルのスライサーで削ぎ出す瞬間からすでに演出が始まっている。薄く削がれた生ハムはそのままでも感動的だが、添えられたご飯や揚げ物と合わせることで新たな世界が広がる。さらに皿の中央に据えられるのはクルックフィールズの竹島氏が手がけるモッツァレラ。イタリアの世界を日本に持ち込んだ名職人たちの食材とともに口にすれば、背景のドラマごと味わうことになる。

もう一つの定番「じゃがいもとキャビア」は、細切りのじゃがいもに発酵バターとコラトゥーラを絡ませ、キャビアを載せるだけのシンプルな構成。しかし素材の純度と組み合わせの妙で、幾重にも重なる旨味と余韻を生む。浅井シェフが仕えた師匠のスペシャリテを想起させる構成であり、料理の系譜と進化を一皿に映す。

その他の皿の数々もまた見事。「スイカのジュース」はじゅんさいが浮かび、軽い塩が甘みを引き締める清涼な序章。

「鰹」は金時草とオリーブオイルの香りが素材の力を鮮やかに浮かび上がらせる。

藁の薫香をまとった「ボタンエビの冷製アラビアータ」は、スパイシーさと甘さが共鳴し、香りの劇場と化す。

「鮎のラビオリ」は蓼のサルサヴェルデとともに二重の苦味を重ね、旨味の奥行きを作る。

魚料理「甘鯛のアーモンドスープ」は、パリッと焼き上げられた皮とナッツのコクが交錯し、香ばしさと滑らかさを同時に堪能できる。

メインの「ラム」は薪火で火入れされ、断面のロゼが美しく、野性味と上品さが一体となった堂々たる一皿。

続く「タリアテッレ」は、ポルチーニとサマートリュフをバターソースで包み込み、量ではなく香りと濃度で圧倒する。

デザートは「梨のシャーベット」が透明感のある甘さで舌をリセットし、

最後に「アマゾンカカオのティラミス」。強烈な苦味と奥行きある香り、そこに寄り添うクリームの柔らかさが、食後の記憶を鮮やかに封じ込める。

『トムクリオーザ』の魅力は、定番と一期一会の皿が共存すること。ペルシュウやじゃがいもとキャビアといった象徴的な料理が物語の軸をなし、その周囲をその日の好奇心から生まれた皿が彩る。浅井シェフが火や香り、熟成の時間を自在に操り、職人や生産者の背景をも一皿に込めるからこそ、すべての料理にドラマがある。わざわざ訪れる価値がある。そう断言できる舞台だ。
ご馳走様でした。
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トムクリオーザ
050-3188-6885
大阪府大阪市北区曽根崎新地1-2-7 櫻ビル 3F
https://tabelog.com/osaka/A2701/A270101/27135015/