2025.06.22 夜 魯山人ご飯から見える、京味の系譜@味ひろ 日本料理 築地・湾岸・お台場 30000円〜49999円 ★★★★☆ 新富町の一角、『味ひろ』の暖簾に掲げられた「味」の一文字。その一筆は、名店『京味』の大将・西健一郎氏によるもの。そこに託されたのは、16年にわたり『京味』で修行を積んだ店主・郡司智裕氏の矜持と、真っ直ぐな料理への眼差し。2016年の開業以来、派手さを拒み、誠実に和の本道を歩む姿が、この店にはある。 料理の口火を切るのは、ばちこ炙り、茗荷寿司、鱸炙り、蛸柔煮、茄子胡麻和え、丸十の盛り合わせ。器の上に整然と並ぶその姿は、まさに“和の技術見本市”。火入れ、酢締め、炊き、和え、揚げ──一品ごとに異なる技が、それぞれの素材を引き立てる。 涼を運ぶ「蓴菜と鮑」は、とろりとした蓴菜にコリッとした鮑、山葵の風味と花穂紫蘇の彩りが、夏のひと景を描く。 続く「芋茎の吉野煮」は、シャキシャキとした芋茎に吉野葛のとろみが絡み、生姜のキレが全体を引き締める一品。ここにこそ『京味』の面影を感じる。 「雲丹のゼリー寄せ」は、出汁ジュレの中に雲丹をそっと閉じ込めた夏の涼味。やわらかな甘みと香りが、冷たい口当たりからふわりと広がる。 「鮑と紫蘇の花の唐揚げ」は、厚みある鮑に衣の香ばしさが重なり、紫蘇の花が余韻の香りを添える。 造里は「鯛の松笠造り」「あこう」。包丁の入れ方、薬味のあしらい、盛りつけの姿勢──どれをとっても素材への敬意が感じられる。 椀には「牡丹鱧」。清澄な吸い地と酢橘の香りが寄り添い、涼やかな器のなかに季節が溶け込む。 焼物は「鮎塩焼き」。この日は、安曇川産と岐阜産の食べ比べ。どちらも火入れは絶妙だが、香り、身の締まり、脂の乗り方に、それぞれの流域の個性がにじむ。食材との対話が楽しめる、上質な時間。 「鰊と茄子の炊き合わせ」は、脂がのった鰊に、艶やかに煮含めた茄子が寄り添う。そこに添えられるのは、千切りにした絹さや。涼感とシャキ感が、煮物に爽やかなアクセントを添える。器もまた涼しげで、夏の装いに相応しい一皿。 そして、締めは「魯山人ご飯」。昆布と鰹の出汁をすり鉢で泡立て、炊きたての白米にふわりとかける。香り、旨味、粘り──そのすべてが一体となり、口の中で舞うように広がる。『京味』の裏メニューとして知られていたこの一杯が、いまや堂々と『味ひろ』の看板を担っている。師の存在が、ここにも息づいている。 甘味は「わらび餅」。ぷるりと弾力ある質感に、香ばしいきな粉が重なり、食後の余韻に柔らかな光を灯す。 『味ひろ』には、奇をてらう演出も、華美な装飾もない。ただ、師から受け継いだ技と精神を、静かに、誠実に、一皿ずつ重ねていく。それはまるで、四季を描く筆のよう。芋茎の吉野煮や魯山人ご飯といった師の面影を、自らの色で描ききる──郡司氏の料理は、そんな継承の芸術である。ご馳走様でした。 — 味ひろ03-6280-5503東京都中央区入船3-8-9 ドミシールカワイ 1Fhttps://tabelog.com/tokyo/A1313/A131301/13293039/