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2026.06.06 夜

一本の線を辿る、流域の旅@SÉN

世界料理(その他)

五條・吉野山・大峰

30000円

★★★★☆

奈良県・天川村に誕生した『SÉN』。2025年、老舗旅館の大広間を改装して生まれたレストランだ。店名の由来は、天川から熊野灘へと続く一本の水の“線”。その流域全体の自然や文化、土地の記憶までも料理に落とし込む「流域料理」を掲げる。今やローカルガストロノミーという言葉は珍しくないが、この店は単なる地産地消では終わらない。

SÉNの世界料理(その他) - 食べある記

その思想を支えるのが、砂山利治シェフ。フランスでは北の海辺やアルプスの山岳地帯で研鑽を積み、帰国後は金沢のレストランでローカルガストロノミーを追求。そして頂点を極めた後、奥様の実家がある天川村へ移住した。だが、すぐに店を開くのではなく、最初の2年間は土地を深く知る時間に充てたという。海辺の野生味、山の料理哲学、地方に根ざす表現、そして天川村での観察。そのすべてが、天川から熊野川、海へと続く流域料理に結実している。

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料理の始まりは川床での一服から。川のせせらぎを聞きながらいただく「黒文字茶」と「いもぼた」が、この店の世界への入口になる。天川で親しまれる郷土食を、ハッシュドポテトのように香ばしく焼き上げ、薪火の香りと絶妙な塩味をまとわせる。素朴な料理がここまで洗練されるのか。思わずもう一つ欲しくなる。

SÉNの世界料理(その他) - 食べある記

それでは、席を移して流域料理をいただいていこう。

「芒種」
葛の葉の天ぷらと、ウグイの一口。葛の葉は雨に濡れたような雫まで表現され、中には空豆。もっちりとした食感と青い香りが広がる。ウグイは下流では臭みが出やすい魚だが、上流のそれは実に清らか。先ほど締めた鮮度に、ビーツの燻製、梅酢、焦がしバターを重ね、野趣を燻香と酸味で包み込む。初夏の山と川を一皿にまとめた導入だ。

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「岩魚」
養殖の岩魚を刺身仕立てで。大和橘のピュレ、葉山葵、独活、トゥルーシーのジュレを合わせる。澄んだ旨味に、柑橘のほろ苦さと山菜の清涼感が重なり、後味はどこまでも爽やか。清流魚の魅力を、軽やかに引き出した一皿だ。

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「虹鱒」
薪火と燻製の香りをまとわせた虹鱒を、真っ黒になるまで焼いた万願寺唐辛子、赤玉葱のピクルスと一緒にレタスで包む。独活のマヨネーズとレモンビネガーの泡が全体をつなぎ、燻香、苦味、酸味、青さが一口の中で重なり合う。

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「鯉」
天川の天然鯉を骨ごとムースにし、クラシックなクネル仕立てで。ほうれん草で包み込み、新玉葱のソースと榧のオイルを合わせる。添えられるのは、こごみや紅葉傘などの春の山菜たち。力強い川魚をフレンチの技法で滑らかに昇華しながら、山の息吹もしっかりと感じさせる一皿。

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「神杉」
奈良名物の三輪素麺を使った一皿。大根、唐墨のピュレ、炒った米の泡を合わせる。流しそうめんのようにするすると胃袋へ流れ込むが、その後にやってくるのは唐墨のコクと米の香ばしさ。最後は山椒のパウダーが余韻を引き締める。

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「雨ノウオ」
薪火で焼き上げたアマゴに、スナップエンドウ、絹さや、うすい豆のフリカッセ。蕗の薹のソースが春の苦味を添え、白詰草がそっと彩りを加える。清流魚の端正な旨味に、豆たちの瑞々しい甘み。季節が春から初夏へ向かう、その瞬間を切り取ったような一皿だ。

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「鮎」
鮎を三枚におろし、黒にんにく、キハダの実、肝のソテーを忍ばせて黒文字に縛り、香ばしく焼き上げる。頭と骨はせんべいにして添えられ、身、肝、骨まで鮎を丸ごと楽しませる構成。黒文字の枝を器にした立体的な盛り付けも印象的だ。肝のほろ苦さと黒にんにくのコク、八朔やじゃばらの爽やかさが重なり、香魚の魅力を余すことなく伝える。

SÉNの世界料理(その他) - 食べある記

「奥吉野鹿」
右にヒレ、左にハツ。ヒレはしっとり柔らかく、ハツは弾むような食感で、噛むほどに鉄分を帯びた旨味が広がる。鹿出汁のソースを合わせ、薄く仕立てたズッキーニで山を、焦がしバターの泡で雲を表現。蕨のピクルスや木の実も添えられ、鹿の野性味と奥吉野の景色を重ねた一皿。

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「桃」
桃のコンカッセとソルベを中心に、榧の新芽と飴細工を添える。みずみずしい甘みの中に、榧の青い香りがすっと差し込み、余韻を引き締める。果実の魅力を軽やかに見せるデザートだ。

SÉNの世界料理(その他) - 食べある記

「蓬」
杏仁豆腐に、蓬のジュレと泡、桜のムースを重ねる。蓬の青い香りと桜の甘み、黒糖チュイルの香ばしさが一体に。仕上げの蓬の天ぷらが、ほろ苦い余韻を残す。

SÉNの世界料理(その他) - 食べある記

流域料理という聞き慣れない言葉は、皿を重ねるごとに自然と腑に落ちていく。川魚、山菜、獣、野草。そのどれもが単なる食材ではなく、この土地を語るための言葉になっているのだ。土地を知るために費やした2年という時間が一皿一皿に宿り、天川という場所をこれ以上ないほど雄弁に伝えてくれる。わざわざ天川村まで足を運ぶ理由が、ここにはある。ご馳走様でした。

SÉN
050-1721-9991
奈良県吉野郡天川村川合267
https://tabelog.com/nara/A2905/A290503/29014703/

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