岡山駅から歩いてほど近い平和町。備前焼の看板が静かに迎えてくれる中国料理店『はすのみ』。2010年に岡山で開店したこの店を率いるのは、倉敷市出身の加藤堅太郎シェフ。高松や東京の名店「麻布長江」で腕を磨き、長坂松夫氏のもとでは高松の店の料理長も務めた人物だ。瀬戸内の魚介や岡山の野菜を、中国料理の技法で季節の一皿へと変換する。香辛料や油脂を前面に押し出すのではなく、素材そのものの味を丁寧に浮かび上がらせる。結果として、料理には自然と滋味深さが宿る。

コースの始まりは、「えんどう豆とアスパラガスの豆乳茶碗蒸し」。鮮やかな緑色が目を引く一品で、フレッシュなえんどう豆の甘味と滑らかなペースト、アスパラガスの青い香りが重なる。温かな豆乳が、滋味深さをじんわりと体に染み込ませる。最初の一皿から、この店の方向性がよく伝わってくる。

続く「烏賊の老酒漬け」は、老酒の熟成香をまとった烏賊に雲丹を添え、その甘味とコクを重ねる構成。雲丹のフレッシュさが、味わいの輪郭をきれいに整える。

「蛸とズッキーニの葱ソース和え」は、瀬戸内の蛸の弾力を主役に据えながら、葱の香りとハーブの爽やかさで軽やかにまとめる。調味料が前に出るのではなく、あくまで素材の味わいを引き立てている。

「新玉葱の春巻き」は、薄い皮を噛んだ瞬間に軽快な音が鳴り、中から新玉葱のとろりとした甘味が溢れ出す。

「スナップエンドウの生姜和え」は、たっぷりの生姜を受け止めても豆の風味が揺らがない。瑞々しさと歯切れの良さが気持ちいい。野菜料理が箸休めではなく、きちんと主役として成立している。

ここから少しずつ、中国料理らしい厚みが加わっていく。「蒸し鶏 四川風」は、しっとりと仕上げた鶏肉に香辛料と辣油の刺激を添えた一皿。

「自家製叉焼」は、柔らかなテクスチャーと脂の甘味が印象的で、噛み締めるほど余韻が長くなる。添えられた漬物が脂を受け止め、次の一口を自然に誘う。

「剣先烏賊の湯引き」は、繊細な烏賊の甘味に、ソースの実山椒のぴりぴりとした刺激を重ねる。

「フカヒレと鮑の白湯煮込み」は、この店の充実感を象徴する一皿。濃厚な白湯の旨味をフカヒレが抱え込み、鮑の弾力と芳醇な香りが奥行きを作る。素材を生かした料理が続く中で、ここではしっかりとした濃度を楽しませてくれる。

「真魚鰹の薬味ソース」は、揚げニンニクや香味野菜をたっぷりと添えた力強い一皿。味の重なりは明快だが、薬味の量を自分で調整できるため、魚の繊細さもしっかり残る。

「放牧牛と香味野菜」は、赤身の旨味と野性味を香草が引き立てる構成。肉料理でありながら、重さよりも素材感が先に立つ。

締めの「干し貝柱の炒飯」は、最後まで穏やかな着地。油のコクで押すのではなく、干し貝柱が旨味をしっかりと担う。米粒は軽やかで、食べ進めるほどに貝柱の余韻が広がっていく。

追加した「麻婆豆腐」も、辛味を強く効かせるタイプではない。豆腐の滑らかさに、香辛料の香りと旨味を重ねた優しい仕上がり。結局、炒飯も麻婆豆腐も箸が止まらない。

デザートは「杏仁豆腐」に加え、

「小夏と東方美人のジュレ」「台湾パイナップルケーキ」。小夏の柔らかな酸味と東方美人の華やかな香りが口の中を整え、焼き菓子の素朴な甘味が余韻を作る。最初の温かな一椀から最後の一口まで、刺激の強弱、温度、食感が丁寧に組み立てられていた。

『はすのみ』の魅力は、中国料理の技術を誇示することではない。瀬戸内や岡山の食材を中心に据え、その持ち味を損なわない範囲で香辛料、発酵、白湯、薬味を重ねていく。小さなポーションを連ねた上品な構成だからこそ、一皿ごとの素材感がくっきりと残る。滋味深く、それでいて中国料理としての満足感もしっかりある。岡山で味わうべき、素材本位の中国料理だ。ご馳走様でした。
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はすのみ
086-238-8403
岡山県岡山市北区平和町1-11
https://tabelog.com/okayama/A3301/A330101/33007719/