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2026.05.17 夜

京都で磨いた技術が、唐津で新しい中華になる@中華 大しげ

中華料理

唐津・伊万里・有田

10000円〜29999円

★★★★☆

唐津の歴史ある町並みに、いま最も勢いのある中華がある。舞台は、佐賀県唐津市坊主町の『中華 大しげ』。店を構えるのは、大正14年、つまり1925年に建てられた旧藤田家住宅質屋店舗兼住宅の離れ。重厚な質屋建築の面影を残す建物で、歴史の厚みを背負いながら、料理は驚くほど現在進行形だ。2024年秋に開業した新店ながら、京都で培った中華と和の感性、そして佐賀や唐津の食材を一つの皿に結びつけている。

その輪郭を作るのが、ご夫婦それぞれのキャリア。店主の大重圭司氏は、京都・祇園の「にしぶち飯店」で腕を磨いた料理人。奥様もまた、京都の日本料理「野口」で経験を重ねた料理人だという。つまり、広東料理の骨格に日本料理の出汁感、季節感、余白の美学が重なるのは必然。そのうえで面白いのは、それを日本料理の文脈のまま出すのではなく、佐賀や唐津へぐっとピントを合わせていること。唐津の魚、佐賀の野菜、地元の発酵調味料が入り込むことで、修業先で得た技術や感性が、この土地の料理へと着地している。中国料理の力強さ、和食の静かな引き算、そして唐津の素材感。その三点が交わる場所に、この店の個性がある。

最初の「冷菜」から、もう大しげらしさ全開。唐津の紫雲丹、足赤海老、一寸豆、甘夏、おかわかめ。胡麻のソースは冷やし担々麺的な輪郭を持ちながら、主役を奪わず、海老の甘みと雲丹の濃厚さをやわらかく受け止める。そこへ甘夏の酸がぱっと光る。中華の濃度で押すのではなく、唐津の素材を中華のフィルターで再編集する感じ。

続く「唐津の鯵 よだれ鶏のタレ」は、発想の勝利。よだれ鶏のタレと聞くと、唐辛子や香味のアタックを想像するが、余韻はきちんと鯵に戻ってくる設計。唐津の新玉葱の瑞々しさが、脂と香味をつなぎ、最後に魚の旨味だけを口の中に残していく。ここに和食の血を感じる。タレを主役にするのではなく、タレによって魚を立たせる。

「チャーシュー」は肉の迫力で一気に空気を変える。艶やかな照り、噛んだ瞬間に広がる脂の甘み、そこへ粒マスタードの酸味と辛味。王道の中華的な満足感がありながら、重さに沈まない。うまい肉を食べているという原始的な喜びに、思わず背筋が伸びる。

名物感が強いのは、やはり「北京ダック」。見せ場としての丸ごとの存在感にテンションが上がるが、食べてみると完成度は見た目以上。皮の香ばしさと甘い味噌、そこへヤングコーンやアスパラなど佐賀の野菜が入り、松金醤油のもろみを使ったタレが日本的な発酵のニュアンスを添える。北京ダックでありながら、どこか唐津の畑の香りがする。これは新しい中華だ。

「マッシュルームのフカヒレスープ」も印象深い。フカヒレの旨味を前面に押し出すというより、マッシュルームの香りと貝柱らしき乾物の旨味で、澄んだ一番出汁のように仕立てている。中華の上湯を、日本料理の椀物の感覚で飲ませるような一杯。器の中で、広東と京都が静かに手を組んでいる。

「鱸のニンニク風味蒸し」は、蒸籠で供される出し方から楽しい。唐津の鱸にニンニクの香り、パクチーの青さ、ソースの旨味が絡む。魚はふわりとほどけ、香味は強いのに後味は軽い。この“香りは中華、余韻は和食”というバランスが大しげの持ち味であり、ご夫婦の歩んできた道が最もわかりやすく味に出た一皿かもしれない。

「佐賀牛の酸辣湯」は、肉の旨味に白木耳、モロヘイヤ、トマトを合わせた一品。酸と辛味で攻めるだけの酸辣湯ではなく、野菜の粘りやトマトの酸味で立体感を作っている。佐賀牛の脂がスープに溶け、そこへラー油の香りがすっと走る。濃厚なのに、飲み終わりは驚くほどクリア。ここからがまた面白い。奥様の修業先である「野口」といえば、締めの食事が次々と登場する、あの幸福な満腹感も一つの魅力。お腹いっぱいになって帰ってほしいという料理人の想いを、大しげでは中華の形で受け継いでいるように感じる。しかも、中華の締めはなぜこうも魅力的なのだろう。米、麺、点心。炭水化物に油と香りと旨味が重なった瞬間、人間の理性など簡単に崩れてしまう。

まずは「カマスとXO醤の土鍋ご飯」。香ばしく焼かれたカマスの身に、XO醤の旨味、唐津産のニンニクの芽、青葱の香りが重なる。土鍋を開けた瞬間の香りで、もう勝負あり。魚の脂、米の甘み、発酵調味料の奥行きが一体になり、気づけば茶碗が空になっている。

さらに「牛すじと奈良漬の炒飯」。中華の鍋肌の香ばしさに、奈良漬の発酵香と甘じょっぱさが加わる反則技。牛すじのコクを奈良漬が引き締め、卵と米が全体をまとめる。中華の炒飯であり、日本の漬物文化でもある。ここにも、京都で学んだ感性を佐賀・唐津のコースへ着地させる大しげらしさがある。

「中華そば」は、水菜、チャーシュー、葱のシンプルな構成ながら、スープは澄んでいて、重さではなく余韻で食べさせる一杯。こういう何気ない麺が、なぜか中華のコースでは妙に嬉しい。

そして「焼売」もいい。肉汁の素直な旨さがあり、これは王道にうまい。創意の中に、ちゃんと中華のど真ん中の美味しさもある。お腹いっぱいになってほしいという想いと、もっと食べたいと思わせる引力。

デザートの「台湾パイナップルケーキ風のデザート」は、焼き菓子の香ばしさとパイナップルの酸味、上にのせた冷たいクリームの軽さが心地いい。中華の食後らしい南国感を残しつつ、重たいコースの終幕にはしない。最後まで設計が丁寧だ。

『中華 大しげ』は、唐津の食材を使った中華、という単純な言葉では収まらない。中国料理の技術、京都で培った和の感性、佐賀の食材、歴史的建築の空気。そのすべてが一つのコースの中で自然に結びついている。ここにしかない魅力が明確で、料理ごとに大きな個性と完成度がある。唐津に行く理由が、また一つ増えてしまった。ご馳走様でした。

中華 大しげ
0955-53-8820
佐賀県唐津市坊主町552-5 離れ
https://tabelog.com/saga/A4102/A410201/41008162/

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