神戸・元町にひっそりと暖簾を掲げる『すし うえだ』。2018年11月25日オープン、淡路島出身の大将・植田将道氏が握る、兵庫の海を主役にした鮨店だ。瀬戸内海に面した明石や淡路の穏やかな海、北へ向かえば日本海の豊かな漁場。南北に海の個性を抱える兵庫は、実は鮨のポテンシャルに満ちた土地でもある。淡路島の「すし屋 亙」で研鑽を積んだ経験に加え、自身のルーツである淡路への想いが、地物を中心に据える姿勢へとつながっている。全国のスター食材を並べるのではなく、地元の魚に光を当てる。その土地の海を、その土地の鮨として表現する。ここに、この店の輪郭がある。

つまみから地物の力がぐっと迫る。「真鯛」は、清らかな身質の中にしっかりとした旨味を宿す一品。「真魚鰹」は、藁と備長炭の香りをまとわせつつ、火入れはレア。表面はパリッと香ばしく、中はしっとりと艶を残す。この火入れのコントラストがいい。焼いた香りで押すのではなく、魚の脂を立ち上げるための香り。ここに料理人の意志を感じる。
「帆立とアスパラ」は、鰆の唐墨がたっぷりとかかり、甘みのある帆立と青い香りのアスパラをつなぐ。鰆を唐墨にするという発想も面白く、魚卵の旨味でありながら、どこか軽やかな余韻を残す。「石鯛」は釣りものらしいぷりっとした食感を活かしながら、なめろう的な仕立てで旨味を膨らませる。魚の鮮度だけに頼らず、咀嚼の先で味を開かせる設計だ。
印象的だったのが「蛍烏賊」。木の芽のような青い香りがカウンター中に広がり、シャリを切るように混ぜる所作まで香りの演出になっている。醤油漬けの卵黄を思わせる濃厚さも重なり、まるで蛍烏賊の卵かけご飯。卵も兵庫のものを合わせるあたり、地元を一皿に閉じ込めようとする思想が見える。続く「茶碗蒸し」は、淡路島の卵にラクレットチーズ、さらに名物である玉葱の甘みを重ねた一品。卵のコク、チーズの塩気、玉葱の甘みが一体となり、淡路島の恵みを小さな器に閉じ込めたよう。
ここから握りへ。シャリは酸の余韻が強く、脂のある種には言わずもがな好相性。一方で、白身にも面白い効果を生む。いかった身質の魚は、噛むほどにシャリの酸と混ざり合い、口の中でゆっくりとマリアージュしていく。最初の印象は端正、食べた瞬間に酸が輪郭を作り、後味で魚の甘みが戻ってくる。握りの完成度は、この時間差に宿る。
「真子鰈」は端正な白身の旨味を、シャリの酸で静かに引き出す。「メバル」は5日も寝かせたというのに、まるでいかった魚のような筋肉質な身質を保っているのが面白い。熟成による旨味の深まりと、ぷりっとした弾力が同居し、咀嚼の先でシャリの酸とゆっくり結びついていく。「墨烏賊」は食感の歯切れが見事で、すだちの香りが輪郭をきゅっと締める。「鰆」は柔らかな脂と酸の余韻が美しい。「真鯛」はこの店の地物哲学を象徴する存在。淡白ではなく、噛むほどに旨い。
鮪の流れもいい。「大とろ」は佐渡、脂の甘さをシャリの酸が受け止める。「赤身漬け」はねっとりとした旨味が舌に残り、「中とろ」ははがしの質感で脂の層がほどけていく。脂を楽しませながら重たくしないのは、やはりシャリの力だろう。「小鯵」はまだ出始めというが、すでに脂が乗っているのが驚き。朝どれらしい鮮烈さに、青魚らしい香りと脂の甘みが重なって、軽快さと満足感を両立している。「紫雲丹」は淡路のもの、甘みだけでなく潮の余韻が残るのがいい。
終盤の「穴子」は骨抜きの丁寧な仕事が光り、ふわりとほどける口溶け。「とろたく」は手巻きで、海苔の香り、鮪の脂、沢庵の食感が一気に押し寄せる。「巻物」は椎茸、海老おぼろ、穴子の組み合わせ。甘み、旨味、香りの重なりがクラシックでありながら、どこか兵庫の余韻へ戻ってくる。「玉子」で締めれば、コース全体の緊張がふっとほどける。
『すし うえだ』の魅力は、単なる地産地消ではない。地元の魚を使うことが目的ではなく、その魚が持つ生命感をどう感じさせるかに向かっている。藁、備長炭、熟成、香り、酸の余韻。そのすべてが、兵庫の海を立体的に見せるための手段になっている。南北に豊かな海を抱える兵庫のポテンシャルを、神戸のカウンターでここまで躍動させる店は貴重だ。もう一度食べたい、というより、また生命を感じに行きたい。ご馳走様でした。
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すし うえだ
078-515-6655
兵庫県神戸市中央区中山手通3-2-1 トア山手ザ神戸タワー112
https://tabelog.com/hyogo/A2801/A280102/28053397/