神楽坂の路地裏に潜む『Nose to Tail』。店名の由来は、牛を“鼻先から尻尾まで”余すことなく食べ切るという思想から。サステナブルな意志を表現する言葉でもあるが、そこに押し付けがましさはない。理念よりも先に、美味しいと楽しいが前へ出る。目の前で肉を見せ、焼き、語り、仕上げる演出の連続。そのライブ感に身を委ねているうちに、赤身も脂も内臓も端材も、それぞれが料理として成立し、気づけば“牛一頭を食べ切る”という思想に触れている。

この店の核にあるのは、熟成への強い自信だ。ただ寝かせるだけではない。時間を使って香りを育て、脂を変化させ、肉の輪郭を再構築していく。まずは「テールスープ」。二日かけて炊き、味付けは塩だけ。にもかかわらず、舌に残るのは骨や筋から滲み出る濃厚なコク。濃い。だが、ただ重いのではなく、奥に透明感がある。塩だけでここまで輪郭を描けるのかと、いきなり熟成への自信を見せつけてくる一杯だ。

続く「ツラミ刺し」は塩山葵で。噛むほどに血の旨味がじわりと広がり、余韻には熟成由来の香りが立ち上がる。

盛り合わせにて、この店の“美味しいと楽しい”が一気に押し寄せる。まるで肉の遊園地。「肉味噌」を苺の酸味で引き上げてみたり、「ハツのサラダ仕立て」は昆布締めと湯引きの食感が心地よく、「メンチカツ」は熟成肉の香りのみで押し切る設計。「自家製がんもどき」は牛出汁を吸い込み、豆腐料理の顔をした肉料理へ着地する。さらに「アップルパイ」にはハチノス、「アヒージョ」には牛軟骨とウルテ、「特上カルビ」は生で味わわせる発想。情報量も多いが、不思議と散らからない。すべてが“牛を食べ尽くす”というテーマに繋がっているからだろう。

「筍饅頭」は酸辣湯風の卵餡掛けで。熟成肉の旨味を酸味ととろみで包み込み、中から肉汁がじわりと溢れる。優しい餡の温度感の中にしっかり肉の存在感を残し、濃密な肉料理が続く中で一度味覚を整える。次の肉へと気持ちを繋いでいく構成も巧みだ。

焼き物では「サーロイン」の脂の甘み、「とも三角」の豆板醤による輪郭、「ナカニク」の赤身の旨味、「小腸」の脂の迫力が続く。
そして、この店の熟成への自信を最も感じたのが、通称「ダーティーステーキ」で供される「内もも」の食べ比べ。炭の中に肉をぶち込み、表面にまとわせた砂糖をキャラメリゼさせることで、焦げる寸前の香ばしさと甘みを共存させる。

表面はカリッと、中は艶っぽいレア。通常の肉がストレートに赤身の旨味を放つ一方で、熟成側は醤油を思わせる香りを纏い、余韻がぐっと長い。派手な香りで驚かせるのではなく、肉の奥に眠っていた旨味を静かに押し出してくる感じ。なるほど、熟成とは時間をかけた調味料なのだ。

終盤には、山盛りの米にガーリックバターを豪快に絡める背徳感たっぷりの一幕も。ここまで熟成や内ももの奥深さを語ってきた店が、最後はこんな力技で胃袋を殴ってくる。その緩急もまた、この店のエンターテインメントだ。

「タン」や

「ハラミ」まで抜かりなく、肉の部位ごとに表情を変えてくる。

締めは「音威子府そば」。黒い蕎麦に、肉の余韻を重ねる一杯。焼肉の後に蕎麦という軽やかさがありながら、最後まで牛の旨味を途切れさせない。ここでも“牛一頭を食べ切る”思想は貫かれている。

『Nose to Tail』は、高級和牛をただ贅沢に食べさせる店ではない。熟成、内臓、端材、脂、そのすべてを編集し、美味しいと楽しいを前面に出しながら、結果としてサステナブルな哲学へ着地させる店だ。ライブ感に満ちた演出も、この店の魅力のひとつ。その多彩な見せ方が、美味しいと楽しいを最後まで加速させてくれる。肉好きなら一度は、このライブ感に身を委ねてみる価値がある。ご馳走様でした。
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Nose to Tail
050-5868-3694
東京都新宿区神楽坂3-2-6 神楽坂越後屋ビル 3F
https://tabelog.com/tokyo/A1309/A130905/13265713/