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2026.05.07 夜

鶏の概念を変える、驚きのスペシャリテ。@旬華 なか村

中華料理

東京・日本橋

10000円〜29999円

★★★★★

東日本橋、隅田川のそばの静かな一角に店を構える『旬華 なか村』。2021年7月創業、店主の中村俊徳シェフは名店で研鑽を積み、さらに香港で家庭料理も学んだ料理人だ。広東料理の技術を土台に、日本の旬を丁寧に重ねていく。そんな一皿一皿には、力強さよりも滋味、濃さよりも余韻を大切にする姿勢がにじんでいる。

象徴するなら、滋味深き広東料理。油や調味料の輪郭を必要以上に立てず、蒸しや乾物の旨味、香味野菜の香りで奥行きを作る。だが、決しておとなしい料理ではない。一品一品に明確な仕掛けがあり、春の食材の青さ、魚介の甘み、発酵調味料の深み、香りの抜け方まで計算されている。体に優しいのに、舌はちゃんと興奮している

幕開けの「サクラマス」は、ジャスミン茶でスモークした香りが印象的。いわば、中華なりのスモークサーモンの完成形だ。見た目は春菊の緑とソースの赤が華やかで、口に入れるとサクラマスの脂にジャスミンの香りがふわりとかぶさる。そこへ黒酢の酸味、桜海老醤の香ばしさ、ナッツの食感が重なり、甘味、酸味、香ばしさが一気に立体化する。これはいきなり心を掴みにくる一皿。

続く「春巻」は、春キャベツ、春筍、帆立、ズワイガニを包み、餡は豆乳でとじるという構成。皮はパリッと香ばしく、中は春野菜の甘みと魚介の旨味がとろり。まずはそのまま、素材の甘みと香りを楽しむ。途中で高知の柚子酢を加えれば、酸味と香りが油の余韻をすっと切り、また別の表情を見せてくれる。まさに、春を巻く。

そしてスペシャリテの「浸蒸鶏(チャンチェンガイ)」。香港で家庭料理も学んだ中村シェフらしさが表れた一皿で、原点は香港で出会った90歳のおばあちゃんから教わった家庭の味。それをそのまま再現するのではなく、プロの料理として改良を重ね、今の形に昇華させている。

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大ぶりの鶏を蒸し上げ、ネギ、生姜、醤油ベースのソースで食べさせるのだが、これが本当にすごい。ブロイラーの鶏が、こんなにも艶やかで、柔らかく、つるんとしたテクスチャーになるのか。肉質はふわりとほどけ、皮はぷるん、噛めば淡い旨味がじわり。家庭料理の温度と、プロの技術。その両方が宿ったスペシャリテだ。

「白湯煮込み」は、漁師料理を中村シェフなりに昇華させた一品。春牛蒡、絹さや、新わかめ、豚バラを合わせ、魚由来のまろやかな白湯に豚のコクを重ねている。そこへ春牛蒡の土っぽい香りが絶妙なアクセントに。特に牛蒡がいい。海と山の旨味をつなぐ存在として機能しており、スープの表情をぐっと深くしている。

「稚鮎のクレープ」は、和歌山・紀の川の稚鮎を揚げ、北京ダックのクレープで包む趣向。蕗の甜麺醤、かいわれ、蓼の葉を合わせることで、鮎の苦味と中華の甘味噌が見事に接続される。北京ダックの形式を鮎に置き換える発想が面白いし、春から初夏へ向かう季節の香りまで巻き込んでくる。

「フカヒレの蒸しスープ」は、乾物、薬膳素材、山海の珍味を重ねた滋味の塊。金華ハムの旨味を土台に、薬膳素材の香り、乾物の深み、山海のエキスが一体となって押し寄せる。ひと口目は澄んだ旨味、次に複雑なコク、最後に薬膳的な余韻がゆっくり身体へ沈んでいく。味覚というより、もはや内臓で受け止める料理。五臓六腑に染み渡る。

「サクラガイの胡麻和え」は、相模湾のサクラガイに芽キャベツなどの野菜を合わせた、口直し的なポジションの冷菜。貝の繊細な甘みと野菜の青い苦味を、胡麻ソースがまろやかにコーティングしていく。コクはありつつも重たくならず、野菜の食感が後味を引き締める。次の料理へ向けて、口の中をすっと整えてくれる一皿だ。

「叉焼」は、馬告(マーガオ)などを使って漬け込んだトントロと茨城県産の肩ロースを焼き上げた一品。そのままでも、脂の甘みと赤身の旨味で十分にうまい。山椒塩、ピクルス、豆板醤はあくまで味変のポジションで、香辛料の刺激や酸味の切れ味がそれぞれ別の表情を引き出してくれる。

「牛頬肉の紹興酒煮込み」は、ズッキーニ、加賀蓮根、カリフローレを添えた一皿。牛頬肉を煮込むのに使った香味野菜を、さらにミキサーにかけてソースに仕立てるあたりに無駄がない。とろける肉質に、紹興酒の甘い香りと香味野菜の厚みが絡み、蓮根の歯応えやカリフローレの香ばしさが立体感を作る。

締めは「炒飯」と「ジャージャー麺風」の二段構え。「炒飯」は、槍烏賊、ズワイガニ、帆立と魚介を贅沢に使った一品。米粒は軽くほどけ、魚介の甘みがふわっと広がる。

ここに一緒に提供されるスープを加えれば、スープ炒飯のように表情が変わる。そのスープ単体でも美味いのだから、これはもう約束された味変だ。

続く「ジャージャー麺風」は、茄子味噌を主役にした一皿。甘辛い味噌のコクが麺に絡み、締めなのにもう一口を誘う危険な味。思わず食べ過ぎてしまったが、これは店側のせいにしておきたい。笑

甘味の「黒もち米のココナッツミルク」は、牛乳のまろやかさと白玉のもちもち感が優しく着地させるデザート。温度、甘さ、食感のバランスがよく、コースの最後にふっと力が抜ける。中華の甘味らしい安心感がありながら、どこか和菓子にも通じる余韻がある。

『旬華 なか村』の魅力は、広東料理の技術を土台にしながら、日本の旬や香港の家庭料理の温度まで一皿に落とし込むところにある。蒸す、煮る、包む、揚げる、燻す。その一つ一つが過剰にならず、素材の持ち味を前へ押し出すために働いている。特に「浸蒸鶏(チャンチェンガイ)」は、この店の代名詞と呼ぶにふさわしい完成度。ブロイラーの鶏がここまで記憶に残る料理になるとは、完全に想定外だった。滋味深く、余韻は軽やか。それでいて、舌には確かな興奮が残る。東日本橋まで足を運ぶ価値あり。次は季節を変えて、またこの広東料理に会いに行きたい。ご馳走様でした。

旬華 なか村
050-5570-4826
東京都中央区東日本橋2-11-7 ラスパシオ東日本橋リバーサイド 1F
https://tabelog.com/tokyo/A1302/A130204/13261122/

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