八戸港の恵みと青森の大地を、イタリア料理という皿の上で再編集する一軒家レストラン『カーサ・デル・チーボ』。店名はイタリア語で「食べ物の家」の意味。2011年5月、東日本大震災直後の八戸にオープンしたという背景からして、この店の料理には土地への覚悟が滲む。池見良平シェフは東京で研鑽を積んだ後、ソムリエである奥様の故郷・八戸へ移住。都市の技術を持ち込みながら、視線は徹底して青森へ向いている。つまり、ここを一言で表すなら“八戸ガストロノミー”。海も山も畑も、八戸という土地をまるごと皿の上に乗せてしまう店だ。

料理の軸は、青森、特に八戸周辺の素材をイタリア料理の文脈で組み立てること。しかも、ただ地元食材を使うだけではない。乾麺に頼らず、パスタそのものに肝を練り込んだり、青森の猪をトルテッリとコンソメに展開したり、キンキの骨をせんべいにして皿の上で再登場させたりと、素材の輪郭を何度も描き直す。足りないものがあれば、探しに行く。なければ、取りに行く。そんな探究心が、皿の細部にまで宿っている。
まず「八戸産毛ガニ 十和田産長芋 十和田わさびソース」。もっちりとした長芋の上に、繊細にほぐした毛ガニがたっぷり。わさびソースの緑が視覚的にも鮮やかで、口に入れると蟹の甘味、長芋の粘り、わさびの清涼感が順番にやってくる。和の素材でありながら、ソースの使い方にイタリアンの香りがある。

「八戸産ヒラメ椎茸〆 カリフラワー 椎茸チップ からすみ」は、見た目の白さに対して味わいはなかなか複層的。椎茸で締めたヒラメは淡白さの中に旨味の影をまとい、カリフラワーの甘味、椎茸チップの香ばしさ、からすみの塩気が立体感を作る。魚を主役にしながら、野菜と乾物的な旨味で奥行きを出す構成がいい。

「八戸産キンキ 青森県産帆立 キンキ骨せんべい」は、青い器の中でキンキの赤が映える一皿。ふっくらした身の脂に、帆立のソースの丸い甘味が重なり、サフランの香りが魚介の輪郭をふわりと持ち上げる。骨せんべいの香ばしさまで添えて、身だけで終わらせないところに料理人の意志を感じる。

ここからパスタが続く。
「冷製シャラティエッリ 八戸漁師『三宝丸』さん水ダコ」は、シチリアを思わせるタコのトマトソースでまとめた一皿。冷製のタッチが水ダコの食感を引き立て、噛むほどに海の甘味が出てくる。トマトの酸味が強すぎず、タコの存在感をきちんと前に出している。

続く「鮑の肝を練りこんだパッケリ 八戸産蝦夷鮑 八戸産アオサ」は、この店らしさがよく出ている。麺の中に肝のニュアンスを抱かせ、さらに自ら採ったというアオサを重ねる。鮑の肝の苦味、海藻の香り、パッケリのむっちりした食感。海をそのままパスタに閉じ込めたよう。

「青森県『奥津軽いのしし牧場』さん猪トルテッリ 猪コンソメ」は、猪を詰め物と出汁の二方向で味わわせる構成。飼育された猪らしいクリーンな旨味があり、コンソメは透明感のある力強さ。野芹の香りが野性味を引き締め、肉の料理なのに後味が重くならない。スープまできれいに飲み干してしまう。

「キタッラ 青森県十和田タンクロ牛 ラグー」は、短角牛と黒毛和牛を掛け合わせたタンクロ牛の煮込みソース。すね、頬、テール、アキレス腱あたりの部位の旨味が溶け込み、キタッラの力強い麺がそれをしっかり受け止める。ペポーゾ的な黒胡椒のニュアンスもあり、素朴さと洗練が同居する。

メインの「青森県産『銀の鴨』バロティーヌ仕立て 黒にんにくのソース」は、しっとり火入れされた鴨に、菊をまとわせた衣が華やかな表情を添える。黒にんにくのソースは甘味とコクがあり、鴨の旨味に奥行きを与えていく。肉の力強さと花の香り、その対比が印象に残る一皿だ。

デザートは「青森産よもぎ アーモンド ホワイトチョコレート 黒胡麻」。よもぎの青い香りに、アーモンドとホワイトチョコレートの甘味、黒胡麻の香ばしさ。最後まで青森の植物的な香りを残すあたり、コースの着地として筋が通っている。

全体を通して印象に残るのは、八戸の食材への距離の近さと、パスタへのこだわりの深さだ。魚介の強さ、山の香り、肉の旨味をイタリア料理の型に収めながら、立ち上がるのはやはり八戸の風景。特にパスタはこの店の大きな魅力で、鮑の肝を生地に練り込んだり、猪を詰め物とコンソメで重ねたりと、一皿ごとに食感も香りも変えてくる。八戸を訪れる理由になる一軒。北の海と山と畑を、パスタを軸にしたイタリア料理として食べる。その体験こそが『カーサ・デル・チーボ』の魅力だ。ご馳走様でした。
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カーサ・デル・チーボ
050-5570-8120
青森県八戸市湊高台1-19-6
https://tabelog.com/aomori/A0203/A020301/2006500/