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2026.04.26 夜

山菜、ジビエ、水。信州を食べる。@無名

日本料理

上田・小諸・蓼科・諏訪

30000円〜49999円

★★★★☆

茅野の静かな時間、庭を正面に望む一軒『無名』。

2008年に「和食 から木」として始まり、2021年に屋号を改めた店だ。店名からは、名のある食材や料理に寄りかからず、名もなき山菜や土地の恵みに光を当てるような姿勢が感じられる。店主の唐木正文氏が表現するのは、信州の風土そのもの。山菜、野菜、ジビエ、水。その土地にあるものを、料理としての強度まで引き上げる。

この季節の主役は山菜。だが、ただ滋味深いだけでは終わらない。ちゃんと旨い。ここがすごい。「きらず和え」は鯛と菜の花に、卵黄で作ったカラスミのような香りを重ね、春のほろ苦さに旨味の輪郭を与える。

「お椀」は行者ニンニク、卵豆腐、蛤出汁、端材アスパラの出汁、ホワイトアスパラ。見た目は凛として、口に含むとアスパラの甘味が広がるが、行者ニンニクの香りと蛤出汁の旨味がそこに強さを加える。滋味深さと力強さが同居する、春らしい一椀だ。

「アスパラの春巻き」も印象的。売れない細いアスパラを束ね、油と塩で魅力を引き出す。美しさとサステナブルが同居し、甘味一辺倒ではない、青い香りと歯切れの良さがある。

「タラの芽」と「タカノツメの山菜」は食べ比べの楽しさがあり、前者は大きく力強く、後者はみずみずしい。

「コシアブラ 木曽の豆腐」は水の綺麗さまで味に映るようだが、そこに胡麻油を合わせるのがこの店らしい。山菜と豆腐の淡い世界に、油脂のコクと香ばしさが入り、醤油の塩気と木の芽の香りが輪郭を作る。滋味深さだけで終わらせず、ちゃんと美味しさの強度まで持っていく。

さらに「ミヤマイラクサ」は、毒を茹でて抜くという山の知恵まで料理に変える一皿。黒胡麻の香ばしさが、山菜の青さに力強い輪郭を与える。

「山菜の辛子味噌和え」は木耳、原木椎茸、こごみ、のびる、山吹を辛子味噌でまとめ、自家製こんにゃくの弾力が食感のアクセントを作る。

「安曇野地鶏の炭焼き」は、胸肉らしいクリアな味わいを、シンプルな炭焼きで素材そのものとして食べさせる。余計な味を足さないからこそ、地鶏の旨味と香りがまっすぐ伝わる。付け合わせの山菜に対する味噌と鰹節の仕事もさりげなく美味い。

「筍」は厚みを持たせ、醤油の香ばしい香りと木の芽で春を直球勝負。

「月輪熊の鍋」は雌の60kg、筍、芹、花山椒。熊の旨味に山菜の香りが重なり、野趣と品格が同じ器の中で手を組む。思わず声が漏れる。

食事はまず「白米」。なめこ汁と香の物だけで、もう十分に成立している。

おかわりは自由自在で、「蕗味噌」をのせれば山の香りが一気に立ち上がり、

「牛の味噌和え」をのせれば旨味がぐっと深くなる。

さらに「長芋」で軽やかに流し込み、

最後は「筍の炊き込みご飯」。筍の甘味と木の芽の香りが米に移り、ここでも春が終わらない。思わず食べ過ぎてしまったが、これは完全に店のせいである。笑

締めの「羊羹」は八重桜の塩漬けが余韻を整える。甘味の中に春の塩気があり、最後まで信州の季節感が途切れない。

『無名』の魅力は、名もなき素材に光を当て、料理としての強度を与えることにある。滋味深さに甘えず、きちんと美味しさへ着地させる。静かな庭を眺めながら、山の生命力を食べる。わざわざ茅野まで行く理由が、ここには確かにある。ご馳走様でした。

無名
長野県茅野市仲町5-4
https://tabelog.com/nagano/A2004/A200403/20002726/

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