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2026.04.25 夜

地場の魅力を切り抜く、諏訪の日本料理。@上諏訪 芦澤

日本料理

上田・小諸・蓼科・諏訪

10000円〜29999円

★★★★☆

信州・諏訪の静かな街に、土地の空気をそのまま料理に映したような一軒、『上諏訪 芦澤』。2024年12月17日の開業、店主・芦澤修平氏は新宿御苑前「御苑前 せお」、修善寺「あさば」、銀座「井雪」の順に研鑽を積み、故郷である諏訪の地で独立した料理人だ。実家は、みそ天丼で知られる「徳八」という背景もあり、食の世界はきっと幼い頃から身近なものだったのだろう。カウンターのみの小さな空間に流れるのは、肩肘を張らせる緊張感ではなく、地元の恵みを丁寧にすくい上げる穏やかな空気。

料理の軸は、シンプルな作りと地場の魅力の切り抜き。魚は金沢、沼津、豊洲から届く。海なし県として魚に不利な見方もあるが、芦澤氏には「あさば」時代に関係を作った沼津があり、距離的には金沢や豊洲も、今の時代なら朝締めが届く範囲にある。考えてみれば、諏訪という中間地点はむしろ有利ですらあるのかもしれない。そこに信州の山菜や野菜を合わせていくことで、海の旨味と山の香りが自然に交差する。山菜の苦味、出汁の余韻、味噌の土地感が、料理全体に諏訪らしい輪郭を与えている。

始まりは「山菜と蛍烏賊の飯蒸し」。お凌ぎ的な一品だが、これがいい。もち米の柔らかな甘みに蛍烏賊の肝の旨味がじんわりと染み込み、山菜のほろ苦さが春の輪郭を描く。

続く「鴨、蕨、蕗」は、この日の印象に強く残る一皿。合鴨はしっとりと火が入り、噛むほどに肉の旨味が広がる。そこへ蕨のぬめり、蕗のお浸しの清涼感、そして出汁の穏やかな旨味。鴨の力強さを山菜が受け止め、出汁が全体を静かにつないでいく。普通にうまい。

「天ぷら」はすべて地物。たらの芽、こしあぶら、葉独活、モロッコインゲン、新生姜。衣は軽く、噛めばサクッと香りが弾ける。山菜の苦味や青い香りを油がふわりと持ち上げ、塩で輪郭を締める。揚げ感がいい。山の素材は天ぷらになると急に饒舌になるが、ここではその声量がちょうどいい。

「お造り」は鹿児島の鯛、北海道の真蛸、牡丹海老の昆布締め。鯛は淡白な中に甘さを含み、真蛸は包丁の入れ方が食感を作る。歯切れの良さと噛みしめた時の旨味の出方が気持ちいい。牡丹海老は昆布締めにすることで甘味に奥行きが生まれ、ただ甘いだけでは終わらない。

そして「鯵のたたきのお椀」。これはうまい。叩いた鯵の旨味が出汁にほどけ、椀全体に魚の香りが広がる。上に重ねた白髪葱や柑橘の香りが後味を軽くし、液体でありながら食べ応えがある。

肉料理は「信州牛の炭火焼き」。炭の香りをまとった赤身に、行者にんにく、ごまだれ、山椒、木の芽を添える。信州牛の脂の甘さに、行者にんにくの野性味がよく合う。ごまだれはコクを、山椒や木の芽は清涼感を加え、食べ方によって表情が変わる。思わずもう一切れ、と手が伸びる。

「炊き合わせ」はこごみ、新玉ねぎ、うるいなど。鰹節の香りをまとった出汁が、野菜の甘味やほろ苦さを引き出していく。新玉ねぎの瑞々しさ、こごみの山菜らしい青さ、うるいの軽いぬめり。それぞれが主張しながら、器の中でひとつの春を形作っている。

食事は「めひかり」「桜鱒」「蕗の薹」「蕗の佃煮」「牛の時雨煮」などを添えて。白飯に寄り添うおかずの構成が実に楽しい。桜鱒の脂、めひかりの旨味、蕗の薹の苦味、牛の時雨煮の甘辛さ。少しずつ味を変えながら白飯を食べ進める時間は、日本料理の幸せそのものだ。締めの「筍の姫皮の味噌汁」は岡谷の味噌を使ったもの。柔らかな香りと味噌のコクに、どこか家庭的な温もりがある。

甘味は「葛切り」と「あん蜜」。葛切りはつるりと涼やかで、黒蜜の香ばしい甘さが後を引く。あん蜜は黒糖のコクが印象的で、食後の余韻を穏やかに整えてくれる。最後まで、余計な飾りよりも素材の輪郭を大切にする姿勢が貫かれている。

芦澤氏の料理には、名店で磨いた技術と、故郷に戻った料理人だからこそ見える土地の距離感がある。そして「あさば」時代に知り合ったという女将さんの、柔らかく誠実な接客もこの店の大きな魅力。料理の静かな余韻に、彼女の空気感が自然と重なっていく。信州の山菜や野菜、味噌、牛肉、そして各地から届く魚介を、今の諏訪の日本料理として静かに立ち上げる。そのバランスがいい。諏訪に新しく生まれた、土地に根を張る日本料理。食べ終えた後に残る“この土地でこの料理を食べる意味”こそ、再訪したくなる理由だ。ご馳走様でした。

上諏訪 芦澤
0266-33-9022
長野県諏訪市大手2-4-12
https://tabelog.com/nagano/A2004/A200404/20028134/

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