自由が丘の静かな住宅街に潜む『luogo』。2022年12月に開業した一軒で、店名はイタリア語で“場所”を意味する。その言葉どおり、ここはただ食事をするための店ではなく、泥谷俊介シェフの経験、食材への執着、炭火への信頼が一つの“居場所”として結晶した空間だ。カウンター中心のライブ感のある設計も、その思想をよく表していて、皿の完成だけでなく、火の入り方や香りの立ち上がりまで含めて体験させるスタイルになっている。

泥谷シェフは岐阜と名古屋で経験を積み、ナポリの下町のレストランで現地の空気を吸い、その後は「イルギオットーネ」や系列店で副料理長、料理長を歴任。さらに「リストランティーノ・ルベロ」の料理長を経て独立したという流れがある。この経歴がそのまま料理に出ていて、イタリア料理の骨格の上に、日本の食材感覚と和のニュアンス、そして炭火の香りを重ねるのが実に上手い。イタリアンをやっているというより、日本の旬をイタリア料理の文法で翻訳している感覚に近い。
この日のコースも、その個性がよく見えた。スターターの「群馬 麦豚生ハム ガーリックトースト」は、12ヶ月熟成の生ハムの塩気と脂の甘みを、ガーリックの香ばしさで前に押し出す一皿。生ハムは単体で完結させることも多いが、ここではトーストに乗せて酒のアテとしての色気を与えているのが面白い。いきなり飲ませにくる。体は正直なもので、これはワインが進むやつだ。

「沼津 桜海老 高知トマト 手打ちピチ」は春の定番感に見えて、印象はかなり鮮烈。見た目は軽やかだが、食べた瞬間にトマトの酸味と旨味がぐっと立ち、そのあとに桜海老の塩気と油のコクが追いかけてくる。手打ちの「ピチ」はむっちりした弾力があって、ソースをただ纏うだけでなく受け止める力がある。春らしさを軽さだけで終わらせず、味の芯まで作っているのがいい。

「千葉 真鯛 鯛白子 筍」は、炙りを入れた真鯛の香ばしさと、白子のねっとりした旨味、さらに生ハムで炊いた筍の塩気が交差する。見た目は端正だが、口の中では海と山がしっかり会話している。カルパッチョ的な冷たい輪郭の中に、炙りの熱の記憶が残っているのも効いている。筍を生ハムで炊くあたり、和の旬をイタリアの塩気で捉え直す店らしい発想だ。

「鹿児島 キンキ ヴェネト ホワイトアスパラ」は、フリットという手法の選び方が巧い。キンキの脂を閉じ込めながら表面に軽い香ばしさを作り、ヴェネト産ホワイトアスパラの気品ある甘みを白ワインベースのブールブランでつなぐ。魚の濃密さ、アスパラのほろ苦さ、ソースの酸と乳化の厚み。どれもちゃんと主張しているのに、皿としてはきれいにまとまる。

「富山湾 蛍烏賊 AOP」は、アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノというシンプルな型を借りながら、真鯛と羅臼昆布の出汁、新生姜、炭火で焼いた蛍烏賊で独自の奥行きを作っていた。最初はオイルの艶とにんにくの香りが来るのに、後半は蛍烏賊の肝のような旨味と出汁の余韻が広がる。AOPなのに情報量が多い。でも散らからない。そこがこの店の強みだと思う。

メインの「北海道 蝦夷鹿 炭火」は、内ももの端正な赤身を炭火でまっすぐに見せる一皿。火入れはしっとり、噛めば鉄っぽさよりも肉の甘みが先に出る。炭の香りは強すぎず、鹿の輪郭を整える程度にとどめているのが好印象。ソースや付け合わせも過剰に飾らず、赤身の美点をちゃんと主役にしていた。

そして終盤の「そら豆 手打ちタリアテッレ パルミジャーノ」がよかった。平打ちの麺にそら豆の青い香り、ベーコンの旨味、パルミジャーノの乳のコク、さらにふきのとうの香りまで入れてくる。春の食材は油断すると“爽やか”で片づけられがちだが、この皿は青さ、塩気、乳味、苦味を層にしていて、食後にしっかり記憶に残る。終盤でも箸、じゃない、フォークが止まらない。

ドルチェの「シチリア カンノーリ ヴァニラ」は、揚げずに焼いた生地で仕立てることで軽やかさを作り、マスカルポーネのクリームでコクを補う構成。クラシックな菓子をそのまま再現するのではなく、コースの流れの中で着地しやすい重さに調整しているのが見える。最後まで“今の一皿”として出してくるのが偉い。

総じて『luogo』の魅力は、和と伊の融合とか炭火イタリアンといった便利な言葉だけでは収まらないところにある。食材の産地や季節感を大切にしながら、皿としてはちゃんとイタリア料理の快楽に着地させる。そのうえで炭火の香りが一本の軸になり、コース全体に統一感を与えていた。基礎がしっかりしているのはもちろん、その上に自分の料理としての意思がある。自由が丘で、旬と火入れと手打ちパスタをちゃんと楽しみたいなら、ここは十分に訪れる理由のある一軒だ。ご馳走様でした。
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luogo
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