銀座の交詢ビルで、スペインの海と日本の四季が交差する『スリオラ』へ。2011年に麻布十番で創業し、2015年に銀座へ移転。店名は、本多誠一シェフが深く影響を受けたサン・セバスティアンの「スリオラ海岸」に由来する。その名の通り、ここにあるのは単なるスペイン料理ではない。フランスで磨いた技術、スペイン・バスクで掴んだ火と素材の思想、そして日本料理で身につけた季節の感覚。それらを一つの人格にまで練り上げた、実に本多シェフらしいモダンスパニッシュだ。

この日のコースを貫いていたのは、フレンチを思わせる端正な佇まいだ。ただし、軸足はあくまでスペインにある。質感の作り方は繊細なのに、一皿ごとの輪郭は驚くほど力強い。塩気、魚介の旨味、乳やナッツのコク、炭や燻香、そしてスパイス。その強さがしっかり酒に合うあたりに、バル文化の血筋を感じさせる。小さな皿でもきちんと印象を残し、その積み重ねがコースになると、フレンチのような流麗さをまといながら、食後にはきっちりスペインを食べた実感が残る。この二面性こそ、『スリオラ』の面白さだ。
まずは「スナック」から。スナックと呼びながら、その立ち上がりはどこかフレンチのアミューズを思わせる。「ピキージョ」をムースに仕立てた一口に、「ワッフル」の軽やかさを重ね、続くブラックオリーブの「揚げパン」では、ふわりとほどける食感のあとに塩気を効かせる。小さいながら、この店の文法をきっちり示す導入だ。

続く「3種のタパス」も印象的だ。酒とともに小皿をつまむタパスというスペイン文化を、そのままコースに持ち込んでいる。「アンチョビ」は塩気と熟成感、

「牛タン」はコカで香ばしさと軽やかさ、

「スミイカ」はタルタルと出汁で海の気配を滲ませる。

三口の中に、スペインの文化をきっちり折りたたんだ構成だ。
スペシャリテの「軽く燻したキャビアとミルクのトリハ」。キャビアの塩気と燻香を、ミルクのやわらかさとトリハの質感が受け止める。この店らしいのは、贅沢な食材を前に出すことより、香りと舌触りで一皿を組み立てていること。バスクの文脈を持ちながら、着地は実に端正だ。

「ホワイトアスパラ バカラオ アーモンド」は、ホワイトアスパラの青さに、なめらかなバカラオ、にんにくオイル、アーモンドのコクを重ねた一皿。崩して食べることで、それぞれの素材がひとつの質感にまとまる。

「ペドロヒメネス香るビロードのようなフォアグラ」は、濃密なフォアグラを甘く凝縮した香りとトマトの酸で整えた一皿。濃厚なのに重たく終わらせない。

「オマール海老とソプラサダ」は、オマールの甘みと魚介の旨味に、ソプラサダのスパイス感とコクを重ねる。スペインらしい力強さがありながら、着地はきれいだ。

「スナップエンドウ豆」は、炭の香ばしさをまとった豆に、鞘から取った出汁のやさしさと生ハムの旨味を重ね、青さを立体的に見せる。軽やかながら、印象はしっかり残る。

「金目鯛のスッケ」は、香ばしく火を入れた金目鯛に、ほのかなカレーの香りを添える。脂を重たくさせず、余韻まできれいに運ぶ。スパイスを前面に出すのではなく、陰影として使うあたりにも、この店のセンスが表れている。

「黒毛和牛の炭火焼き」は、長州牛の旨味を炭火の香りで輪郭づけた一皿。岩塩、アスパラガス、卵黄ソース、和辛子の泡が脇を固め、王道ながら流れのいいメインに仕上げている。

「レモネード」で口中を整えたあとの

「ミルク」もいい。アイス、ムース、ドルセ・デ・レチェと、ミルクというひとつのテーマを質感の違いで立体化していく。その層を食べ進める楽しさがある。

締めくくりの「自家製チョコレートと食後のお飲物」まで抜かりなし。カカオ豆から自家製で仕立てるチョコレートに加え、カカオの殻までお茶として使うことで、味だけでなく香りまでカカオの世界を広げていく。そして最後に控えるのが「ポルボロン」。口の中でほろほろと崩れる、あのスペインらしい祝い菓子まで含めて、最後の最後に文化の余韻を残していく。

本多シェフの料理は、フレンチの技術を借景にしながら、芯の部分ではしっかりスペインを見ている。そのうえで、日本の食材や季節感を無理なく溶け込ませているから、どの皿にも異国趣味では終わらない説得力がある。小皿の楽しさ、酒を呼ぶ力強さ、そしてコースとしての流麗さ。その全部を一つの流れにまとめ上げてしまうあたりに、この店の実力があるのだろう。ご馳走様でした。
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スリオラ
03-3289-5331
東京都中央区銀座6-8-7 交詢ビル 4F
https://tabelog.com/tokyo/A1301/A130101/13125046/