西天満の静かな街並みに溶け込む『Mugunfa』。入口でまず目に入るのは、丸みを帯びた花の看板。その意匠は、店名の由来でもある韓国の国花「無窮花(ムクゲ)」を象ったものだろう。福島・大淀で存在感を放った店が現在は西天満へと場所を移し、黒を基調にしたシックな空間の中で、韓国料理を新しい文脈で語り直している。ひと言で表すなら、“韓国料理の再編集”。馴染み深いはずの料理に、フレンチやイタリアンの技法を重ねながら、それでも芯にはちゃんと韓国が残っている。

そこから始まるコースは、韓国料理を高級化するというより、韓国料理の記憶をいったんほどいて、別の輪郭で結び直していくような流れ。見た目は端正で静かだが、口に運べば胡麻油、発酵、辛味、酸味といった韓国料理の要素がきちんと立ち上がる。その整理の仕方が実に上手い。
最初の「茶碗蒸し」は、その店の方向性をよく示していた。滑らかな卵地の上に、しらす、キャビア、とんぶりを重ね、異なる粒感を幾重にも重ねていく設計。まず感じるのは卵のやさしい甘みと舌触りで、そこにしらすの塩気、キャビアの旨味、とんぶりの細かなプチプチ感が重なっていく。胡麻油の香りが全体を韓国側へ引き寄せる。

続く「海老の醤油漬け」も印象的。いわゆるカンジャンセウを思わせる構成だが、ただ韓国料理をなぞるだけでは終わらない。ねっとりとした海老の甘味に醤油のコクを重ね、そこへキャビアを乗せて塩味の立体感をつくる。さらにキウイの酸味が後味を軽く整えていく。頭まで食べられる仕立ても含めて、ひと皿の完成度は高い。

「筍のキンパ」は、食感の演出が面白い。海苔のパリパリ感がまず印象をさらい、キンパというより、韓国料理のモチーフを使った軽やかなフィンガーフードのような着地。筍の食感も相まって、新しさは十分。ただ、中のまとまりはややおとなしく映り、外側の食感設計の見事さがより前に出た印象でもあった。それでも、キンパという馴染みある料理をここまで自由に解釈する発想には、この店らしさがよく出ている。

「チヂミ」は、馴染み深い料理をそのままなぞるのでなく、一度分解して再構築したような一品。えごまの清涼感を軸に置きながら、桜海老の香ばしさとクリームチーズのコクを、サムジャンの発酵感へと結びつけていく。韓国料理の記憶をちゃんと残しながら、見せ方も味の運び方も現代的。この店らしい再編集の巧さがよく出ていた。

「ムルフェ」は、この店の“韓国料理の再編集”を象徴する一皿。本来は冷たい刺身のスープ料理だが、ここではその骨格を残しながら、別の輪郭で組み直している。コチュジャンや酢味噌のニュアンスに、胡瓜や茄子、ナスタチウム、トマトコンソメの透明感を重ね、酸味、旨味、清涼感が立体的に広がる。白身魚の繊細さを核に置きながら、ムルフェを軽やかに再構築してみせた。

「ポッサム」も面白い。春巻きの中に豚肉とえごまを包み、下に白菜キムチを敷くことで、ポッサムの構造をそのまま別の形へ移し替えている。ポッサムも春巻きも“包む”料理であり、この一皿ではその行為そのものまで再編集してみせた。パリッとした皮の軽やかさのあとに、豚の旨味、えごまの香り、キムチの発酵感と酸味が続く。韓国料理の記憶を保ちながら、見せ方も食べさせ方もきっちり新しい。

魚料理の「鰆」は、韓国焼酎で酒蒸しにする着想が面白い。とはいえ、その風味をビビッドに立たせるというより、身のふくらみをきれいに残すための使い方に映る。海老のコチュジャンソースを合わせることで、繊細な身に韓国的な輪郭を添えていた。

肉料理の「和牛」もまた、面白い着地点を見せる。和牛の脂の甘味に、マスタードの酸味や薬味の細やかな仕事を重ね、重たくなりすぎないように整えていく。添えられた「キンパ」にはアスパラや沢庵が仕込まれ、単なる脇役に終わらない。肉を食べ、キンパを挟み、また肉に戻る。その往復が成立しているのがいい。

終盤の「参鶏湯」は、このコースの中でいちばん韓国の輪郭を感じた一皿。野菜出汁を使いながら、鶏の濃厚な旨味をしっかり前に出し、塩分は抑えつつ胡椒をたっぷり効かせて味を立たせる。白葱のキムチもよく合っていて、優しさだけでは終わらない。じんわり沁みるのに物足りなさはない。こういう締めがあると、再構築のコース全体がちゃんとルーツへ着地していく。

デザートは「オレンジ」と「金柑」にウイスキーの香りを重ねた構成。柑橘の明るさに少しビターな余韻を与えることで、甘味一辺倒にせず、大人っぽくまとめていた。

『Mugunfa』の魅力は、韓国料理の中にまだ見えていなかった景色を見せてくれることにある。馴染みの深い料理を、知っている味のまま終わらせない。その一方で、置いていかれるほど難解にもならない。その距離感が絶妙だ。韓国料理が持つ力強さや親しみやすさを保ちながら、新しい文脈を与えていく。西天満で静かに咲く一輪の花は、そんな美学までしっかり宿していた。ご馳走様でした。
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Mugunfa
050-5597-0837
大阪府大阪市北区西天満5-16-15 エフワンビル 1F
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