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2026.03.31 夜

「ことわりをはかる」とは!?@ことわりをはかるみせ ばんどう

日本料理

名古屋市

30000円〜49999円

★★★★☆

名古屋・今池にひっそりと構える『ことわりをはかるみせ ばんどう』。

まず、この屋号について触れぬわけにはいかないだろう。理(ことわり)を料(はか)る店——つまり、これは料理店という意味。ここで面白いのが「料理」という言葉の語源だ。料理とは“理(ことわり)を料(はか)る”と書く。素材の理を理解し、それをどう扱うかを決める行為。つまり、日本における料理とはこういうことなのだ。一方で、英語の“cook”は火を使って調理する行為そのものを指し、フランス語の“cuire”もまた「火を通す」という意味を持つ。西洋の料理が“火”を中心に発展してきたのに対して、日本料理は“理”を中心に組み立てられてきた。この違いが実に面白い。

その思想を体現する舞台は、いわゆる日本料理店のそれとは少し違う。炭火を中心に据えながらも、見慣れない調理器具や最新の厨房機器が並び、まるで実験室のような緊張感が漂う。温度や時間、熱の入り方を数値的に捉え、再現性のある最適解へと導いていく姿勢。感覚に委ねるのではなく、検証と更新を繰り返すそのアプローチは、まさに“理を料る”という言葉を体現している。

その“理”は、当然ながら皿の上でも裏切らない。

「ホワイトアスパラのすり流し」は、昆布出汁を強めに効かせながらも、素材の風味をしっかりと主役に据えた一皿。出汁の旨味で輪郭を押し出しつつ、アスパラの甘さと青さが前に出てくるバランス。

「菜の花と蛍烏賊の辛子和え」は、温かい状態で提供される一皿。冷製が定番の辛子和えをあえて温度を持たせることで、香りと苦味がより立体的に広がる。菜の花のほろ苦さと蛍烏賊の旨味と炭火の香が重なり、春の味わいに奥行きを与えている。

「蛤とアーモンドミルクの椀」は、貝の旨味にナッツのコクを重ねることで、出汁の概念を拡張する一皿。うるいとアスパラをしゃぶしゃぶで添えることで、春のニュアンスをまとわせていく。蛤の力強い旨味の中に、青さやほろ苦さが溶け込み、出汁そのものから春を感じさせる構成が印象的だ。

「センネンダイ(千年鯛)」は“幻の鯛”とも呼ばれる一尾。軽やかな脂を炭火で整え、そこに蕗の薹の佃煮を添えることで、ほのかな苦味が全体の輪郭を引き締める。

「鰹の藁焼き」は、香ばしく立ち上がる煙のニュアンスに、長葱とレモンのネギ塩を重ねることで、香りと酸を明確に設計。

「雲丹きしめん」は、蒲郡産のきしめん専用小麦を使った一皿。平打ちの麺が持つ独特の食感と、濃厚な雲丹の旨味がしっかりと拮抗する。味の強さだけで押し切るのではなく、麺というフォーマットに落とし込むことで成立させているのが面白い。きしめんという名古屋の食文化を土台にしながら、その上で料理として再構築しているあたりにも、この店らしさがよく表れている。

「真鯛と浅利、塩キャベツの蒸し物」は、炭の熱を使いながら、浅利の旨味を真鯛へと移していく一皿。出汁としてまとめるのではなく、食材から食材へと味を受け渡していくようなアプローチが印象的だ。

続く「京都の筍」では、300度で1時間、茹でることなく火入れすることでアクを分解し、甘味のみを抽出する。この徹底した火入れの設計に、“理を料る”という思想が端的に表れている。

「金目鯛」は皮目をパリッと仕上げながら、身はしっとりとジューシーに。昆布出汁と甘い人参が脂を受け止め、さらにフグの白子がコクの層を重ねていく。すべてが意図的で、すべてに理由がある。

締めの「筍の土鍋ご飯」は、カーボングラファイトによる高火力を活かし、筍と米、塩のみで炊き上げる一品。

1600度に達する熱量で一気に火を入れることで、素材の甘味と香ばしさを引き出していく。そのまま味わうだけで完成しているが、そこに蛍烏賊を加え、さらに出汁で茶漬けへと展開する三段構成。ひとつの料理を段階的に変化させながら体験させる流れに、気づけば夢中で食べ進めてしまう。

デザートには「昔ながらのプリン」。しっかりとした卵のコクと固めの食感、ビターなカラメルが全体を引き締める。ここまで積み上げてきた理の世界観を、どこか懐かしい甘味でそっと着地させるあたりも、この店らしい。

『ことわりをはかるみせ ばんどう』。理(ことわり)を料(はか)る店——その言葉の意味は、コースを通して静かに、しかし確実に腑に落ちていく。感覚に頼るのではなく、すべてに理由があり、すべてが設計されている。それでいて、最終的に残るのは難しさではなく、ただ純粋な「美味しさ」だけだ。料理とは何か。その問いに対して、ここまで明快に、そして体験として答えてくれる場所はそう多くない。日本料理の奥行きと現在地、その両方を同時に見せてくれる一軒である。ご馳走様でした。

ことわりをはかるみせ ばんどう
愛知県名古屋市千種区今池4-1-14 フカミビル 1A
https://tabelog.com/aichi/A2301/A230106/23062836/

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