六本木の路地裏に潜む『ウブ』、そして孤高の食材狂が率いる『出雲』。今回のイベントは、主催として自分が最も見てみたかった景色を形にしたものだ。ウブが掲げるのは“ノスタルジック・ガストロノミー”。子供の頃に誰もが心躍らせた洋食や大衆料理を、最高峰の技術と食材で再構築するというコンセプト。一方の出雲は、その対極にある存在で、常軌を逸するほどの仕込みと熟成、そして食材への執念で皿を完成させる店。いわば「記憶を編集する店」と「記憶を破壊する店」。この両者が交わったとき、何が起こるのか。それを確かめるための夜だった。
テーマは明確で、“すごい料理人に普通の料理をやらせる”こと。出雲の大谷重治氏にとっては、ある意味で最も難しい課題だろう。だが、だからこそ見える景色がある。結果として生まれたのは、シンプルな顔をしながらも、異様なまでに解像度の高い料理たちだ。

幕開けは「白魚の目刺し」。白魚という本来は儚く繊細な食材を、あえて目刺しという保存食の文脈に落とし込む発想。その時点で異常だが、さらに凄いのは仕上がりだ。乾きの設計、塩の入り方、火の通し方、そのどれもが精密で、香ばしさの奥にほろ苦さ、さらに内側にはわずかに残された水分が旨味を押し広げる。噛むほどに味が重なり、シンプルな料理のはずなのに情報量が多すぎる。

「串カツ(ウブ特製ソース)」は豚の赤身と白身を分解し、再び巻き付けることで脂と肉のバランスを意図的にデザイン。噛んだ瞬間にジューシーさと軽やかさが同居し、衣の粒度と油切れの良さがそれを後押しする。

「アジフライ」は豆アジという選択によって仕事を見せる一皿。サイズが小さいからこそ下処理と火入れの精度がダイレクトに表れ、その結果として驚くほどストレートにジューシーな旨味が立ち上がる。

「水菜の豚巻き」はさらに面白い。主役は肉でも野菜でもなく、5年熟成のポン酢だ。角の取れた酸味に、時間がもたらすコクと奥行きが重なり、豚の脂を受け止めながら全体を一つにまとめ上げる。火入れによって引き出された肉の甘みと水菜の青味、その両者をこのポン酢が橋渡しすることで、料理としての完成度が一段引き上がる。

中盤の「フィッシュバーガー」はウブの真骨頂とも言える一皿。ノスタルジーの象徴をここまで立体的に再構築するかという完成度で、バンズ、フライ、ソースが一体となって押し寄せる。

「トリュフ水餃子」は一転して艶やかな余韻を残し、

「ハンバーグ」は肉とソースが完全に溶け合うことで、旨味の塊として成立している。

そして締めは「焼きそば」。誰もが知る料理を、ここまで精密に作り込むのかという衝撃。麺の水分、油のまとい方、香ばしさの付け方、その全てが高次元で成立しており、“屋台料理の完成形”と呼びたくなる仕上がりだ。

最後は「わらび餅、黒蜜」で余韻を優しく着地させる。

出雲の圧倒的な仕込み力と、ウブの記憶を呼び起こす編集力。その両者が交わることで、料理はここまで新しい表情を見せるのか。主催として、この景色を実現できたことに大きな意味を感じている。完全にやられた一夜。また必ずやりたい。ご馳走様でした。
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ウブ
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