京都・河原町に店を構えるモダンチャイニーズ『VELROSIER』。オーナーシェフ岩崎祐司氏が手掛けるこの店の料理を一言で表すなら、“構築する中華”。多くの料理人が素材を削ぎ落とす方向へ向かうなか、ここでは食材、香り、食感、技法を幾重にも重ねていく。黒を基調にしたシックな空間で展開されるのは、そんな多層的な発想で組み上げられたチャイニーズ・ガストロノミーだ。

岩崎シェフの料理は、とにかく情報量が多い。減圧調理、瞬間スモーク、発酵、フリット、パウダー化など様々な技法が登場する。だが皿の上は決して混沌にならない。油脂のコク、発酵調味料の旨味、香辛料の香り、野菜の甘味。複雑な要素が重なりながら、最終的には一つの味として収束する。多層的なのに整理されている。この矛盾の成立こそが、この店の面白さだ。
まずコースの幕開けは「雉のスープ」。愛媛の雉を使った澄んだスープで、口に含むと鶏油のコクがじわりと広がる。清湯の透明感がありながら旨味の厚みはしっかり。体をゆっくり温めながら、この後に続く料理への期待を静かに高めてくれる一杯だ。

続いて「鮑炒飯」。八時間火入れした鮑を減圧調理で柔らかく仕上げ、肝はチップスにして香ばしさを加える。味のベースは肝とオイスターソースとシャンタン。そこへ春菊の青い香りが差し込む。見た目は炒飯なのに構造はガストロノミー。なのに、米の香ばしさや油のコクはしっかり“炒飯”として成立している。このバランス感覚が実に見事だ。

「玉葱」の一皿も面白い。飴色玉葱の甘味を軸に、内部には甘海老の紹興酒漬けを忍ばせる。さらに焦がし玉葱のチュイルで香ばしさを重ねる構成。玉葱という素材の甘味と旨味を立体的に引き出す一皿だ。

続いて登場したのが「揚げ天津」。豚ミンチをベースに、蕗の薹や蕗味噌でほろ苦さを加え、XO醤や金華ハムで旨味を補強。さらに、フロマージュブランのコクを重ねる構成だ。どこかメンチカツを思わせる満足感だが、香り立つ山菜の苦味が全体を引き締め、しっかり中華の輪郭を描いている。

「フォアグラ最中」はこの店のスペシャリテの一つ。コンフィしたフォアグラに紹興酒の香りをまとわせ、ほおずきのジャムを忍ばせる。濃厚な脂のコク、発酵香、果実の甘酸っぱさ。その三つが一口の中で重なり、想像以上に自然な調和を見せる。フォアグラというフレンチの象徴的な食材が、紹興酒のニュアンスによって中華の文脈へと橋渡しされる。この店の発想を象徴するような一皿だ。

富山の「蛍烏賊」はプーアル茶で瞬間スモーク。豆豉の塩味、新玉葱の甘味、一寸豆のピュレ、さらにミルクの泡と雲丹まで重なる構成だ。プーアル茶の燻香や豆豉の発酵の旨味といった中華らしいニュアンスが軸となり、そこに様々な要素が重なっていく。それでも味の主役はあくまで蛍烏賊。幾重にも重なる要素が、その旨味を立体的に浮かび上がらせていく。

「大根餅」は印象的な構成。中トロの叩きに山椒醤油のソースを合わせ、キャビアや卵黄を重ねる。さらにサバイヨンがコクを加える仕立て。脂の旨味を幾層にも重ねながら、山椒の香りが全体を軽やかに整える。伝統的な点心である大根餅を軸にしながら、食材と技法で新しい表情を与えた一皿だ。

「餃子」はその料理を再構築した一皿。ニラの茶碗蒸し、豆板醤の豚ミンチ、揚げた餃子皮、ニラのアイスパウダーを重ね、スプーンで食べるスタイルに仕立てる。形は違えど、口の中で合わさればしっかり餃子になる。

続いて登場するのは「チャーシュー」。香ばしく焼き上げた肩ロースに甘やかな中華香辛料のニュアンスをまとわせ、春キャベツを添える構成。北京ダックを思わせる食べ方で、肉の旨味に野菜の軽やかな甘味が重なり、味に立体感を生み出している。

続く「よだれ牛」は、よだれ鶏ならぬ一皿。信州サーロインを軽く湯引きし、胡麻のコクとクレソンの清涼感を合わせる。京都の筍は減圧調理のあと天ぷらにすることで、みずみずしさと香ばしさを同時に引き出している。

「フカヒレ」は南禅寺豆腐の揚げ出しに重ねる一皿。さらに上海蟹を使ったシャンタンのソースを合わせるという贅沢な構成だ。濃厚な旨味をまとったフカヒレを、卵白の柔らかな口当たりが優しく受け止める。

魚料理は「金目鯛の中華風天ぷら」。ふっくらと火入れされた金目鯛に、菜の花や桜海老のフリット、セロリの素揚げを添え、チリソースでまとめる。春の香りと油のコクが交差する一皿。

メインは「宮崎牛」。黒胡椒主体のソースにメークインのピュレを合わせたシンプルな構成だが、柔らかな肉質とスパイスの香りが心地よい余韻を残す。

デザートは金柑のコンポートに伊予柑とデコポンのグラニテ、陳皮のジュレ、ココナッツを合わせた柑橘の一皿。爽やかな香りが口の中をすっと整える。

最後は「卵黄の塩漬け胡麻団子」。濃厚なコクと香ばしさでコースを締めくくる。

工数も食材も実にリッチ。それでも料理は必ず“中華料理”として着地する。どれだけ要素を重ねても、最終的には一皿の料理としてまとまる。この整理力こそが『VELROSIER』の真骨頂なのだろう。複雑に見える料理ほど、口に運ぶと驚くほど輪郭がはっきりする。多くの要素を重ねながらも、最終的には一つの料理へと収束していく。その構築力こそが、この店の最大の魅力。京都で体験するチャイニーズ・ガストロノミー、その完成度の高さを実感する一軒だ。ご馳走様でした。
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VELROSIER
075-744-6984
京都府京都市下京区河原町通四条下ル2丁目稲荷町318-6 GOOD NATURE STATION 2F
https://tabelog.com/kyoto/A2601/A260201/26033284/