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2026.03.15 昼

薪火が描く、京都・大原のテロワール。@la buche

フレンチ

京都市

10000円〜29999円

★★★★☆

京都・大原の静かな山里に店を構えるレストラン『la buche』。店名はフランス語で“薪”を意味する言葉。その名の通り、この店の料理の中心にあるのは薪火の存在だ。炎が生む香り、炭の熱、ゆっくりと素材を変化させる時間。そのすべてを通して、大原の自然そのものを皿の上に描こうとする店である。オーナーシェフの森尚平氏はフランスや東京の星付きレストランで研鑽を積み、故郷・大原へ戻ってきた料理人。世界で磨いた技術を、故郷の畑や山、そして狩猟文化に重ね合わせる。そう、ここは薪火で大原のテロワールを描くレストランだ。

その舞台となる大原という土地もまた、料理の背景として興味深い。京都市街から北へ少し入った山間の集落で、古くから京野菜の産地として知られる里山だ。昼夜の寒暖差が大きく、水も豊富。その自然条件が野菜の味を濃くする。一方で近年は若い農家も増えているという。料理人との対話を重ねながら、新しい品種や栽培方法に挑戦する人たちが現れ、その結果として面白い野菜が次々と生まれている。長く続く京野菜の伝統と、新しい農業の挑戦。その二つが同居しているのが、今の大原という土地らしい。

この店の料理もまた、その環境と強く結びつく。畑の野菜、山の野草、近隣の猟師が仕留めたジビエ。それらに薪火の香りをまとわせ、フレンチの技法で整理していく。乾燥させたぶどうの葉のウェルカムティーから始まり、アミューズでは「紅芯大根 柚子胡椒」「酸凝固チーズ 椎茸 菊芋」「パンデピス 唐辛子」なとが並ぶ。甘味、酸味、香りを軽く重ねながら、コースの輪郭を整えていく構成だ。

「ねぎ ふきのとう 大根 ラディッシュ」。鹿のブイヨンをベースにしたコンソメの中に、葱や蕗の薹のピュレ、大根を重ねる一皿。まずコンソメの澄んだ旨味が広がり、その後に蕗の薹のほろ苦さがふっと顔を出す。最後に大根の瑞々しさが全体を整え、春の山里の空気をそのまま飲み込むような感覚を残す。

「クレソン さつまいも チーズ」。クレソンを薪火で軽く香らせ、チーズのソースと甘い薩摩芋を合わせた構成。クレソンの野性味ある青さに、薩摩芋の甘さと乳のコクが重なる。そこへ薪のニュアンスが静かに重なり、野菜料理でありながら奥行きのある味わいを作り出している。

「黒人参 ブロッコリー スイスチャード パクチー」。黒人参のスープは、もったりと濃厚で甘みが強い。その上にパクチーを絡めたブロッコリーが乗り、土の甘さとエスニックな香りが同時に広がる。薪火の香ばしさもわずかに残り、どこか異文化的なバランスが面白い。

「こしひかり 菜の花 芽キャベツ 春菊」。米はリゾット仕立て。菜の花や芽キャベツのほろ苦さに、春菊の素揚げが香りを添える。米の甘さと青い香りが重なり、野菜が主役の皿として成立しているのが印象的だ。

魚料理は「イワナ 小松菜 柚子」。岩魚をパイで包み、小松菜のソテーと合わせる。ソースは柚子を効かせたブールブラン。パイの香ばしさ、岩魚の繊細な脂、小松菜の青さ、そして柚子の爽やかな酸味。それぞれがきれいに役割を分担しながら一体感を作っている。

続くジビエは「猪 三池赤高菜 タアサイ カワヂシャ」。猪はハム仕立てで提供され、意外なほどクリアな味わい。野生の力強さよりも、肉の旨味の輪郭がすっと立ち上がる印象だ。そこに三池赤高菜のピュレの発酵的なニュアンスが重なり、青い野菜の香りが全体を引き締める。山の野菜と野生の肉。その組み合わせが、この土地の食文化をそのまま表現しているようだ。

メインは「鹿 ほうれん草 山椒」。外腿と内腿を使い分けた鹿肉は、赤身のミネラル感が際立つ仕上がり。肉の出汁をベースにしたソースに山椒が重なり、香りの余韻を長く引く。

途中で供されるスペルト小麦のパンと燻製バターも印象に残る。薪火の料理と自然に呼応する香ばしさで、思わずもう一切れ手が伸びる。

デザートは「黄人参 古代米 さつまいも」。人参のアイスを中心に、穀物と芋の甘さを重ねた構成。最後は小菓子が添えられ、コースは穏やかな余韻を残して締めくくられる。

森シェフの料理は、フレンチの技法を土台にしながら、その視線は常に大原の土地へ向けられている。畑の野菜、山の恵み、ジビエ。そこに薪火の香りを重ねることで、皿の上にこの土地の風景が浮かび上がる。薪火を通して大原のテロワールを描くレストラン『la buche』。野菜の力強さを改めて実感させてくれる場所だ。ご馳走様でした。

la buche
075-600-9196
京都府京都市左京区大原来迎院町400-3
https://tabelog.com/kyoto/A2601/A260504/26037313/

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