六本木の静かな住宅街に暖簾を掲げる日本料理店『松川』。2011年創業。店主は松川忠由氏。滋賀の名料亭「招福楼」で修行を積み、その後、東京・南麻布の名店「青草窠」で料理長を務めて名を上げた料理人だ。素材の力を最大限に引き出す料理、そして余計な装飾に頼らず味そのもので語るスタイル。いまや日本料理界の頂点の一角を担う存在である。

この日の主役のひとつは、丹後・間人港の「間人蟹」。まずは「蟹身と蟹味噌」。ほぐした身の瑞々しい甘味に、濃厚な味噌のコクが重なる王道の組み合わせだ。

続いて囲炉裏で焼き上げる「焼き蟹脚」。目の前で仕上げられ、香りから食欲を刺激する。表面に香ばしい焼きの香りをまといながら、中はしっとりと甘い。繊維がほどける瞬間に旨味が弾ける。

そして最後に「蟹爪」。ぷりっとした弾力のある身をそのまま頬張れば、蟹の甘味が一直線に広がる。

さらに「蟹の飛龍頭 芹」。蟹をそのまま楽しませた後は、変化球。ふんわりとした飛龍頭の中に蟹の旨味を閉じ込め、芹の香りが余韻に奥行きを与える。身、脚、そして爪。間人蟹の魅力を段階的に味わわせながら、最後は料理としての表情も見せる構成だ。

だが、この日の料理の魅力は蟹だけでは終わらない。
蟹そのものの魅力を存分に堪能させたかと思えば、その前後では構成のオリジナリティーが光る。素材の魅力を引き出す引き算の料理を見せながら、思わず唸らされる足し算や掛け算のセンスも随所に顔を出す。松川らしい料理の妙である。
「白魚の天ぷら キャビア」
コースの流れの中ではお凌ぎ的な一皿。軽やかに揚げた白魚を寿司のように仕立て、その上にキャビア。温かい天ぷらと冷たいキャビア、白魚の甘味とキャビアの塩味。物理的にも味わい的にも立体感を生む。

「御造」
鮪と鯛。余計な仕事を施さず素材の力をそのまま味わわせる。鯛には海鼠腸を合わせて。濃厚な旨味が加わり、素材の良さに味変的な足し算を生む。

「御椀」
おこぜの椀。発芽玄米の餅を合わせる。香ばしく焼いた餅が澄んだ出汁でほどけ、おこぜの旨味に発芽玄米の香りが個性を添える。

「河豚 白子和え」
河豚の身に白子の和え。白子の濃厚なコクが加わり、淡白な河豚の旨味を引き上げる。芽葱の香りが軽やかなアクセント。

「筍」
筍の中に貝類を忍ばせる。筍の香りに貝の旨味が重なり、春らしい滋味を作る一皿。

「モロコ」
琵琶湖産のモロコ。小ぶりな魚ながら、香ばしい焼きとほろ苦さで滋味を感じさせる。

「甘鯛 菜の花」
鱗をパリッと焼き上げた甘鯛に、菜の花のほろ苦さ。脂の甘味と春の苦味が心地よいコントラストを作る。

「丹波猪 牛蒡」
力強い肉の旨味と脂の甘さに、揚げた牛蒡の香ばしさが重なる。野趣と洗練が同居する松川らしい一皿。

締めは「手打ち蕎麦」。揚げた白魚と蕗の薹を合わせる。蕗の薹は葉ごと揚げられており、その一枚一枚に出汁が染み込む。ほろ苦さと香ばしさに白魚の軽やかな甘味が重なり、出汁との一体感を生む。白魚のサイズ感、蕗の薹の揚げ方、そして出汁。全体のバランスが実に見事だ。

そして食事は白飯とともに、

いくら、海苔、ちりめんじゃこ、からすみといった定番のお供が並び、コースの中で見せた足し算や掛け算の妙から一転、最後は王道へと収束していく安心感で締めくくられる。

甘味は「水羊羹」。松川の定番のひとつで、ぎりぎり形を保つほどの柔らかさ。口に入れた瞬間にすっと溶け、まるで飲み物のように儚く消えていく。続いて「苺の寒天寄せ」。透明な寒天の中に苺を閉じ込めた一品で、瑞々しい甘酸っぱさが食後の余韻をすっと整えてくれる。

改めて強いセンスに驚かされた夜だった。素材そのものの力を見せつけながら、時に足し算や掛け算で表情を変え、最後は定番へと収束する安心感で着地する。日本料理の王道と創造性、その両方を高い次元で成立させる一軒である。ご馳走様でした。
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松川
03-6277-7371
東京都港区赤坂1-11-6 赤坂テラスハウス 1階
https://tabelog.com/tokyo/A1307/A130701/13124391/