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2026.02.28 夜

パスタ尽くしを成立させる設計力@PRIMO PASSO

イタリアン・ピザ

築地・湾岸・お台場

10000円〜29999円

★★★★☆

新富町の地下に暖簾を掲げる『PRIMO PASSO』。イタリア語で“最初の一歩”を意味するこの名とは裏腹に、店はすでに確固たる人気を築いている。予約は常に先まで埋まり、ミシュランの星も獲得。地下へと続く階段を降りると、そこにはカウンター中心の凛とした空間が広がる。藤岡シェフは金沢の寿司店に生まれ、和の出汁と素材への向き合い方を幼少期から体に染み込ませてきた料理人。国内外でイタリア料理を磨き、本場でもパスタを任される経験を持つ。

料理全体の印象は、構成の大胆さにある。パスタが続くという単純な嬉しさがまずある一方で、炭水化物が重なる危うさも同時に孕む。だが冷製と温製、厚みや食感、ソースの濃度を巧みに変化させることで、重さではなく多様性が前に出る。いわばパスタの美味しい側面だけを連続させる設計だ。個性は味付けの方向性にある。蛤や昆布の出汁で旨味を広げ、柑橘やビネガーで輪郭を引く。イタリアの骨格を保ちながら、着地点は日本人の味覚へ。立体的で奥行きのある味わいが、その挑戦的な構成をしっかり支えている。

ここからは、実際にいただいた料理を順に追っていこう。

「北寄貝 白アスパラガス 蕗の薹」
浅利出汁を効かせた茶碗蒸し仕立て。白アスパラガスのピュレを泡立てたエスプーマの下から、北寄貝の甘みが立ち上がる。スナップエンドウの青さにバジルの香りが重なり、そこへ蕗の薹のほろ苦い香りがふわりと抜ける。日と伊、それぞれの食材が持つ香りが自然に交差する一皿だ。2つの春の輪郭が静かに広がる。

「揚げピザ 生ハム 柿」
ドーナツのように丸く揚げた生地の中には、リコッタ、スカルモッツァ、パルミジャーノの三種のチーズ。外はさくり、中はもっちり。そこへフランス産の生ハムをふわりと重ね、柿のペーストで甘みを添える。塩気、乳のコク、果実の柔らかな甘み。クラシックなニョッコ・フリットの文脈を踏みながら、甘塩のコントラストで一段モダンに仕上げる。ベルケルで削られる生ハムのライブ感も含めて、この店らしい高揚感を生む定番の一皿だ。

「カッペリーニ アオリイカ 菜の花」
パスタの一皿目を担う冷製。蛤と昆布の出汁で締めたカッペリーニに、ねっとりと甘いアオリイカ。菜の花のほろ苦さ、唐墨の塩気が重なり、仕上げに酢橘の皮と果汁がすっと抜ける。和の出汁感覚を土台にしながら、唐墨や柑橘で立体を作る。

「メジマグロ 葉山葵 八朔」
炭でさっと火を入れ、藁の香りを纏わせたメジマグロ。中心はしっとりとしたレア、表面だけに火のニュアンスを宿す。八朔のほろ苦い酸味と、葉山葵のペーストの清涼感が脂をすっと整える。

「ラビオリ かすみ鴨 モッツァレラ」
主役は、かすみ鴨のミンチを包んだラビオリ。鴨の脂と旨味が前に出る、輪郭の太い味わいだ。行者ニンニクの野性味ある香りが重なり、力強さをさらに押し上げる。一方、水牛モッツァレラは薄く引いた大根で巻いて添えられ、冷たい乳のコクと瑞々しさで鴨を受け止める。木の子のスープが全体をつなぎ、ジャンボなめこの食感と森のような香りが加わる

「リングイネ トマト」
この店のスペシャリテ。使うのはトマト、バジル、オリーブオイルのみ。装飾は削ぎ落とされ、平打ちのリングイネに赤と黄色のトマトの旨味を凝縮したソースが絡む。ひと口目はあくまでシンプル。しかし咀嚼とともに甘味と酸味の均衡が立ち上がる。塩で押さず、トマトの密度で食べさせる設計だ。オリーブオイルが艶を与え、バジルが最後に輪郭を描く。誤魔化しの効かない一皿。

「ニョッキ 紅はるか 黒トリュフ」
紅はるかの甘みを前面に出したニョッキを、バターでまとめる。ねっとりとした質感に半熟卵のコクが絡み、さらに豚肉の赤ワイン煮込みが加わることで一気に重心が下がる。旨味の層が厚い。そこへ菊芋のピクルスが酸を差し込み、甘さと脂に切れ味を与える。仕上げはイタリア産の黒トリュフ。土の香りが全体を覆い、香りの密度を高める。

「生ハム メロン ミント」
王道の組み合わせを再構築する一皿。生ハムの塩気に、完熟メロンのとろける甘み。そしてミントはシャーベットで。温度差が加わることで、甘塩のコントラストがより鮮明になる。ミントの清涼感が口中を一度リセットし、コースの流れに軽やかな転換をもたらす。クラシックをなぞるのではなく、きちんと今の形に整えた仕上がりだ。

「美笑牛」
千葉県産サーロインをロゼに火入れ。赤身の旨味と脂の甘みが素直に広がる。ソースは筋から丁寧に取ったジュ。凝縮した肉の旨味が真っ直ぐに寄り添う。合わせるのはアレッタとケール。アレッタはブロッコリーとケールを掛け合わせた野菜で、ほのかな甘みと青い苦味を併せ持つ。ケールの力強さとともに脂を受け止め、ビネガーの酸が全体を引き締める。

「カプチーノ」
コーヒータイムかと思いきや、正体はパスタ。カップを覆うきめ細かな泡の下に潜むのはタリオリーニとホタルイカ。泡をすくうと、ホタルイカの旨味をまとったタリオリーニが現れる。ミルクフォームが口当たりを柔らかく包み込み、その奥から海の塩気とほのかな苦味が立ち上がる。視覚はカフェ、味覚は完全にイタリアン。遊び心のある仕立てだが、味は真面目。

「ヘーゼルナッツ」
イタリア・ピエモンテ産のヘーゼルナッツを主役に据えたドルチェ。乳製品はあえて使わない。ナッツそのものの香ばしさと油分のコクを引き出し、甘さは控えめに設計。舌に残るのはクリームの重さではなく、焙煎の余韻だ。

「苺 メレンゲ フロマージュブラン」
白い皿の中央に、円盤状のメレンゲを重ねた端正なフォルム。上下の焼き色を帯びたメレンゲの間に苺を忍ばせ、上には真っ白なフロマージュブラン。下には鮮やかな苺のソースが広がり、赤と白のコントラストがくっきりと映える。

パスタを主役に据えるという発想自体が、やはり挑戦的だ。だがその挑戦は誇張ではなく、静かな覚悟に近い。和の感性を織り込みながら、あくまでイタリア料理として成立させる。そのバランスは決して易しくない。それでも一皿ごとに輪郭は明確で、全体は滑らかにつながる。攻めているのに、破綻しない。そこにこの店の強さがある。ご馳走様でした。

PRIMO PASSO
050-5590-8063
東京都中央区築地1-5-11 ACN築地ビル B1F
https://tabelog.com/tokyo/A1313/A131301/13280320/

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