「おいしい」を、
すべての人に。

検索

2026.02.19 夜

鎌倉の海を、スペイン文脈で味わう@anchoa

スペイン料理

鎌倉・湘南

10000円〜29999円

★★★★☆

古都・鎌倉の静かな路地に店を構える『anchoa』。店名はスペイン語でアンチョビを意味する。その名を冠するということは、塩と海を核に据える覚悟の表れだろう。相模湾の魚介を主役に、カタルーニャやバスクの文化を背景に据える。観光地の延長線上にある異国ではなく、鎌倉という土地そのものの延長線上にあるスペインだ。

幕開けは店名を背負った「アンチョア コカ」。コカとはカタルーニャで親しまれてきた平焼きパン、祝祭にも軽食にも寄り添う“暮らしのパン”だ。薄く焼き上げた生地が具材と一体化し、その上に春キャベツの甘みとスペイン産アンチョビを重ねる。噛んだ瞬間に塩味が立ち、続いて野菜の甘みが広がる。アンチョビは“海の生ハム”。熟成の旨味と焼きの香ばしさが重なり、この一皿が店の個性を雄弁に物語る。

ピンチョスは一斉に卓上へ運ばれる。その佇まいはどこかアフタヌーンティーのよう。小さなポーションが整然と並び、視線が自然と巡っていく構図だ。「鹿」は煮込みで旨味を凝縮し、「ウツボ」は塩茹でで弾力を際立たせ、「蛸」はクミンと唐辛子で甘みを引き上げる。「マッシュルーム」は自家製チョリソーを内包し、「金目鯛」はフリットで脂を閉じ込める。そしてこの日は「鯖」。酢と燻香で青魚の輪郭を立体化する。ひと皿に海と山が並び立ち、眺める時間さえ楽しい構成だ。

タパスに入ると、より土地に寄り添う構成へ。

「シリヤケイカ/スナップエンドウ」は本来グリーンピースで合わせるところを、甘く太らせたスナップエンドウで代替。半生の火入れがイカの甘みをくっきりと浮かび上がらせ、じゃがいもが優しく受け止める。素材の味を素直に感じさせる設計だ。

「石鯛/根菜/モホベルデ」は澄んだ旨味の石鯛を主軸に据えた一皿。その魚を扱うのが、鎌倉の鮮魚店〈さかな人〉の長谷川さん。血抜きや締めの精度で魚の透明感を引き出すことで知られる目利きだ。雑味のないクリアな味わいは、その仕事の賜物。蕪や人参、大根といった根菜の甘みを重ね、モホベルデの青い香りとクミンのニュアンスで立体感を加える。さらに蕗の薹のほろ苦さが季節を差し込み、魚のピュアさを一層際立たせる構成。

印象的だったのは「ピキージョピーマン」。相模湾の希少な蟹の強い甲殻類の旨味を内包し、赤ピーマンの甘みがそれを包み込む構成。甘みと出汁が舌に長く残り、思わずパンを重ねたくなる。

「アカハタ/浜大根/シェリー」は魚のコンソメにシェリー酒の酸を効かせ、葉だけ育つという浜大根の個性を添える。カリフラワーの甘みがクッションとなり、全体を丸くまとめる。

肉は「サカエ熟成牛/ビーツ」。基本は地元・相模湾や鎌倉近郊の素材で構成するこの店において、これだけは県外から。鹿児島の経産牛を二ヶ月熟成させ、炭火で焼き上げる。炭の香りをまとった赤身は旨味が凝縮し、五時間オーブンで火を入れたビーツの甘さが寄り添う。土地へのこだわりという軸を持ちながらも、それを曲げてでも使いたい素材がある。その判断自体も、この一皿の説得力になっている。

締めは「パエリア」。魚介かイカ墨を選べるが、主役はあくまで米。具材を豪快にのせるタイプではなく、出汁を吸わせる設計だ。魚や甲殻類の煮汁をしっかりと含ませ、一粒一粒に旨味を染み込ませている。底にできるソカラットの香ばしさがアクセントとなり、アリオリのコクが全体をまとめ上げる。派手な具に頼らず、米そのもので勝負する一皿だ。

デザートは「湘南ゴールド」にスペイン産オリーブオイルを合わせたアイス」。酸味と青い香りが食後を洗い流す。

とろける質感の「バスクチーズケーキ」は“飲める”テクスチャー。焦げの苦味と乳の甘みが溶け合い、完成度が高い。小菓子の米を使った甘味やプリンまで抜かりない

アンチョビという名を掲げながら、主役はあくまで鎌倉の海と季節の野菜。スペインの技法はその魅力を増幅させる装置に過ぎない。相模湾の魚を、イベリアの文脈で味わうという体験はここならではだ。「アンチョア コカ」だけでも再訪したいと思わせる明確な魅力がある。鎌倉でスペインを探すなら、間違いなく選択肢に入る一軒だ。ご馳走様でした。

anchoa
050-5571-9391
神奈川県鎌倉市御成町2-14-3 御成ヴィレッジ A棟 1F
https://tabelog.com/kanagawa/A1404/A140402/14083796/

エリア

ジャンル

価格帯

評価

月別アーカイブ