恵比寿の雑居ビルの裏通り。赤提灯の横で揺れているのは布じゃない、縄だ。縄を束ねた暖簾を掲げる『縄のれん』。40年以上、この場所で続いてきた酒場。店名を説明する必要がない、そのまんまの説得力。この縄はただの演出じゃない。長い年月を吸い込んだ時間の塊だ。暖簾をかき分けた瞬間、恵比寿の空気が少しだけ変わる。洒落た街の温度が一段下がり、酒場の湿度が前に出る。あの縄を越えた先から、立ち飲みの時間が始まる。

まずは「ハイボール」。店に入ると、だいたいみんな同じグラスを持っている。ここでは自然とこれになるらしい。色はやや濃いめの黄金色。飲んでみると、確かに濃い。炭酸でごまかすタイプじゃない。酒の輪郭がはっきりしている。それでいて重くはない。立ち飲みのテンポにちょうどいい強さだ。

この店は特別な何かを見せるわけじゃない。けれど、40年以上続いてきた理由は、こういう一皿一皿の積み重ねにある。壁の短冊メニューが、時間とともに裏返っていく。赤い「売切」の札が、一本、また一本と増えていく光景もこの店の名物だ。迷っていると、選択肢が静かに消えていく。そのスピードも含めて、この店のリズム。

まずは「さし(しろ)」。軽く湯通しした白もつに酢味噌と葱。焼きとはまったく違う表情を見せる一皿だ。脂はとろりとやわらかく、噛むというより溶ける感覚に近い。そこへ酢味噌の酸味がすっと入る。

続いて「にこみ」。見た目の通り濃厚だ。白味噌ベースの汁にもつの脂と旨味がしっかり溶け込んでいる。口に入れた瞬間、コクが一気に広がる。もつの脂が前に出るタイプで、正直、めちゃくちゃ酒を進ませる。濃いめの「ハイボール」と交互にやると止まらない。

串はホルモンが主役。「しろ」は艶やかな脂をまとい、ぷるんと弾ける。タレの焦げが香ばしさを作り、噛むと甘みがじわりと広がる。「てっぽう」は肉厚で弾力が強い。簡単には歯を通させないが、そのぶん旨味が長く残る。

「がつ」はコリッと軽快で、流れを整える一本。「かしら」は赤身の旨味が真っ直ぐで、脂とのバランスがいい。

「牛はらみ」はホルモンとは違う肉の厚み。噛んだ瞬間に広がる鉄分を含んだ旨味が力強い。タレの甘辛さが乗ることで、ぐっと酒を呼ぶ一本になる。

「しびれ」は小ぶりながら濃厚。とろりと舌に絡み、脂のコクが短く鋭く残る。

合間に「甘とう」。強火でさっと炙られ、青い香りとほのかな苦味が口の中を整える。この一本で流れがリセットされ、また串に戻れる。

最後まで食べ終わる頃には、短冊のいくつかがすでに裏返っている。さっきまであったはずの串が消えている。その刹那的な感じも含めて、この店の味だ。縄をくぐり、濃いめの「ハイボール」を握り、脂をまとったもつを頬張る。洒落た恵比寿の夜とは別の時間が、ここには流れている。気取らず、立ったまま、煙を浴びる。ご馳走様でした。
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縄のれん
03-3496-2919
東京都渋谷区恵比寿西1-8-4 Diビル 1F
https://tabelog.com/tokyo/A1303/A130302/13007484/