本土最南端へと伸びる大隅半島。その奥へ、奥へ。正直に言えば、決してアクセスがいいとは言えない。旅の延長線上というより、目的地として覚悟を決めて向かう場所だ。けれど──食材にとってはどうだろう。黒潮がぶつかる海、火山灰土壌の畑、寒暖差のある気候、そして距離があるからこそ守られてきた在来種や生産者の営み。料理人にとっては決して効率的ではない立地。しかし、食材にとってはこれ以上ない環境。その事実を証明するかのように存在するのがイタリアンの名店『センティウ(SENTI.U)』だ。

内田康彦シェフはイタリアで研鑽を積み、都市での表現も体得してきた料理人だ。洗練を学び、構築を覚え、素材の扱いを理解してきたからこそ、辿り着いたのが、大隅半島という地理条件と真正面から向き合うローカルガストロノミーだ。都会的な技術と半島の土着的な素材。その両輪が噛み合うことで皿は力を持つ。だからこそ料理はシンプルで、素材へのリスペクトに溢れている。
まずは「アオリイカ」。在来種の城内大根、新玉葱と合わせ、白で統一された一皿。視覚的にもノイズを排し、素材ごとの甘味の比較が楽しめる。大根の澄んだ甘味、新玉葱の丸い甘味、アオリイカの透明感ある甘味。すべて方向性が違う。その差異をぶつけるのではなく、重ねる。テクスチャーも巧妙だ。しゃくり、ほぐれ、ねっとり。強さはないが、解像度が高い。大隅の畑と海のポテンシャルを、そのまま引き出した構成。

続く内之浦産の「石鯛」。つくね芋の粘性、ピーナッツ豆腐の香ばしさ。ナッツの風味が鼻を抜け、まるで熟成チーズのように魚の旨味を支える。ただし重くはしない。そこへ背脂の塩漬けで一点だけインパクトを置く。白を基調としながら、味の強弱を立体的に描く。

「ゾウリエビ」。地物をポレンタ粉で香ばしく。ビーツ、縮みほうれん草を添える。ビーツの土の甘味が驚くほど力強い。雲丹のエキスは全面に出ず、余韻にだけ漂う。設計が実に巧み。素材の順番を守る。

串打町の「シャポン(去勢鶏)」。もも、ハツ、砂肝を主役に、黒大根、菊芋、パースニップを合わせる。まず目を引くのは、すべての食材のカットを揃えた造形美。皿の上にリズムが生まれる。黒大根のオイルとバターで静かなコクを重ね、ケールで口中を整える設計。主役であるシャポンは、凝縮した雄の旨みに加え、雌のようなきめ細かい肉質と柔らかさを併せ持つ存在。噛み締めれば力強いコクが広がり、繊維はしっとりとほどける。

「白甘鯛」。ふっくらと蒸し上げ、猿水のジャスミン米をソースのように添える発想が面白い。通常は液体でまとめるところを、米で香りと温度をまとわせる設計。ジャスミンの芳香が立ち上がり、甘鯛の繊細な甘味をふわりと包む。蕗の薹のほろ苦さ、サワーポメロの酸、島らっきょうの刺激、フェンネルの清涼感。山の苦味、柑橘の酸、海の甘味が交差する。大隅半島の縮図のような一皿だ。

地物の「原木椎茸」は蒸し焼きにして、香りと水分を内に閉じ込める。そこに軽く漬けた「キハダマグロ」を重ね、魚醤の旨味と燻したレモングラスの香りを纏わせる。桜島のひじきは揚げて食感と塩気を補強。陸のりが磯のニュアンスを広げ、仕上げにセージバターで奥行きを与える。

「あわびのリゾット」。百合根のほくりとした優しい甘味を土台に、豚の背脂のコクを重ね、青唐辛子のンドゥイヤが皿に芯を通す。とはいえ辛味は決して前に出過ぎない。穏やかで、じわりと広がる程度。その控えめな刺激が、百合根の甘味と鮑の旨味を引き立てる役割に徹している。主役の鮑は火入れが抜群で、弾力を保ちながらも歯切れはやわらかい。

阿久根の雲丹を使った「パスタ」。薩摩半島・阿久根の海で獲れる雲丹の甘味を主軸に、鱧出汁をベースに据える構成。鱧はこの土地では通年水揚げされる存在だという。その安定した旨味がソースの土台を静かに支える。雲丹の濃密な甘味に、出汁の透明な旨味が重なり、そこへ高菜の辛味と発酵のニュアンスが差し込まれる。辛味は強くないが、確実に輪郭を引き締める役割。

メインはふくどめ小牧場のサドルバック、肩ロースを炭火で。赤身は締まり、脂は澄んで甘い。噛むほどに旨味が広がる。合わせる黒米が面白い。付け合わせではなく、味付けの一部として機能させている。穀物のほのかな甘味が肉の脂を受け止め、ぷちりとした食感がリズムを生む。蒸した黒キャベツやストリドーロの青い苦味、ディルの葉のソースが清涼感で整える。制約のある土地だからこそ生まれる発想。

デザートは喜界島の胡麻と黒糖を軸に、柑橘のシロップと生姜のアイスを重ねる構成。胡麻の香ばしさと黒糖の深い甘味が広がり、八朔の酸味が輪郭を整える。イタリア菓子の要素を落花生で置き換えるのも、単なる代用ではない。大隅のテロワールとイタリア菓子の文脈を掛け合わせる試みだ。ナッツのコクが余韻を支え、生姜の清涼感が静かに締める。

ここまで一貫しているのは、“土地を主語にする”姿勢だ。
遠い。決して便利ではない。だが、その距離が守ってきた風土がある。黒潮の海、火山灰の畑、半島に根付く在来種と生産者。そのポテンシャルを、都市で磨いた技術で正確に引き出す。足すのではなく、歪めない。飾るのではなく、際立たせる。ローカルガストロノミーという言葉は今や珍しくない。だが『センティウ(SENTI.U)』のそれは、流行ではなく必然だ。この場所で、この環境でやる意味が皿にきちんと宿っている。ご馳走様でした。
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センティウ
0994-44-6820
鹿児島県鹿屋市新川町587
https://tabelog.com/kagoshima/A4604/A460401/46013967/