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2026.02.10 昼

薪火で描く、出水のテロワール@KAI

イタリアン・ピザ

鹿児島

10000円〜29999円

★★★★☆

鹿児島・出水の静かな通りに店を構える『KAI』。オープンから3年。川崎に生まれ、屋久島で育ち、東京で修行を重ねた33歳のシェフが、この地に土着して開いた一軒だ。土地の人間ではない。だからこそ、外から来た視点で出水を見つめ、覚悟をもって根を下ろす。その姿勢が皿に滲む。無機質な外観の奥にあるのは、薪火の匂いと、静かな情熱。掲げるのは明確にテロワール。

料理の方向性は一貫している。薪火を軸に、地元食材の輪郭をはっきり描くこと。味の組み立ては論理的だが、表現は過剰にしない。酸で立ち上げ、脂で包み、苦味で締める。見た目は端正、口に含めば香りが広がり、余韻はすっと消える。重たくならず、しかし物足りなさもない。土地の滋味をきちんと料理に昇華させている。

「海風/菜の花/サラダ玉葱」。ボイルした菜の花のほろ苦さ、牛乳のまろやかな甘み、赤海鼠のねっとりとした旨味を赤ワインビネガーで引き締める。そこにサラダ玉葱の透明感ある甘さが重なる。苦味、甘味、酸味、旨味のスイッチを一斉に入れる一皿。

「ヒラメ/葱」。塩でマリネした平目の澄んだ旨味に、薪でソテーした葱の香ばしさを重ねる。魚醤のコクを忍ばせ、地元レモンの酸で引き締め、甘酸っぱいソースが全体をまとめる。からし菜のほのかな辛味がアクセント。火を入れた葱の甘さと薪の香りが、平目の繊細さを静かに押し上げる。

「鰆/晩白柚/大根」。熾火で皮目を炙り、薪の香りを纏わせ、身はレアにとどめる。脂の甘みを湛えた鰆に、大根の酸味を重ねることで輪郭を引き締める。添えられた晩白柚のほろ苦さと爽やかさが後口をさっぱりと整える。火の香り、脂の甘み、柑橘の清涼感。バランスで食べさせる一皿。

「出汁/茸/手羽」。薪の香りを纏わせた鴨手羽と、鴨ガラから引いた出汁を軸に据える。原木椎茸は干すようにじっくり焼き、水分を抜いて旨味を凝縮。えのきや香味野菜が重なり、出汁に奥行きをつくる。鴨と茸の旨味が溶け合い、じわりと広がる一皿。

「タリオリーニ」。アオリイカとフレッシュトマト、長島町産じゃがいものチップ。細麺ながら弾力があり、セモリナの配合が効く。噛むほどに小麦といかの甘みが重なる。

「サルシッチャ/米」。出水の鹿に、鴨レバー、ハツ、砂肝の粗挽きを合わせたサルシッチャを主役に据えた一皿。ターメリックの香り、バターとチーズのコクでリゾットに厚みを持たせる。そこへバルサミコ酢の酸を差し込み、全体を引き締める。仕上げにケールのほろ苦さ。鹿と鴨という土地の生命力を、乳と酸でまとめ上げた構築的な一皿。

「鹿児島うんまか豚/薪」。しっかりと火を入れたうんまか豚は、繊維の奥から甘みが滲む。脂は軽やかで、薪の香りがじんわりと重なる。今回は出水産天然鴨も追加。胸とももを焼き分け、血の旨さをきちんと残す火入れ。豚の素直な甘みと、鴨の野性味。どちらも薪焼きだが、表情はまったく違う。

「カリフラワー」。具は置かない。麺を食べるためのソースとしてのカリフラワー。野菜ベースのペーストにチーズと黒胡椒を重ねた、いわばカリフラワーのカチョエペペ。甘みを引き出したカリフラワーがソースとなり、麺にまとわりつく。胡椒の刺激とチーズのコクを、野菜の柔らかさが受け止める構図。

「蜜柑/フェンネル」。柑橘の爽やかさとフェンネルの青い香りが交差し、口中をリセット。

「苺/粉茶」。焼き苺の凝縮した甘酸っぱさ、小豆のやさしい甘み、粉茶のほろ苦さ。

「卵/黒糖/マルサラ」。黒糖のコクとマルサラ酒の香りを纏ったプリンが、静かに締めくくる。

出水という土地に、後から来て根を張るということ。簡単ではないはずだ。それでもこの店には、借り物ではない風景がある。薪火という原始的な熱、地元食材への解像度、イタリア料理の構造。その三つが無理なく結びつき、皿の上で一つの物語になる。テロワールは出身地ではなく、どこで覚悟を決めるかだと教えてくれる。わざわざ出水まで足を運ぶ理由が、きちんとここにある。ご馳走様でした。

KAI
090-9766-0872
鹿児島県出水市昭和町50-19
https://tabelog.com/kagoshima/A4602/A460204/46016438/

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