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2026.02.09 夜

ピッツァを往復するコース@尾山台 山田

イタリアン・ピザ

東急沿線

30000円〜49999円

★★★★☆

尾山台の住宅街、その静けさの奥に据えられた『尾山台 山田』。この店の空間を支配しているのは、設えや演出ではなく、薪窯の存在そのものだ。窯を中心に据え、L字に組まれたカウンターは、客を自然と火の正面に導く。生地が伸ばされ、火が入り、皿が立ち上がるまでの工程がすべて視界に入り、料理と空間が分断されない。どこか根源的で、余計な情報が削ぎ落とされた感覚がある。ちなみに、暖房は置かれていないが、火の熱が空間に行き渡っているのもその感覚を強めている。

この空間で展開されるのが、ピッツァを軸に据えたコース仕立ての構成。日本ではまだ多くなく、それ自体が明確な個性になっている。特徴的なのは、ピッツァと料理が交互に組み込まれている点だ。ピッツァで軸を示し、料理で広げ、またピッツァに戻る。その往復が自然に設計されている。そして素材へのこだわりも明快だ。サスエ前田魚店の魚やサカエヤの肉といった輪郭のはっきりした食材を用い、ピッツァだけでなく料理単体でもきちんと成立させる。構成と素材、その両方で個性をつくっている。

コースはマルゲリータから始まる。最初の一枚で、この店がどんな方向を向いているのかがはっきりと示される。トマトは量を使い、生地の穀物感と正面から向き合う構成。モッツァレラは過不足なく、バジルは香りの輪郭を定める役割に徹する。噛んだ瞬間に小麦、続いてトマトの酸、最後に薪の香りが残る。この流れが、そのまま以降の料理の基準になる。

続くのは、イワシのマリネとタスマニアサーモンを一体として組み立てた前菜。脂の異なる二種の魚を重ね、ディルやマイクロ野菜、ハーブで青みを添える。下にはクスクスとカポナータ、ピキージョのソース。唐辛子とバルサミコ酢が全体を引き締める。

ここで二枚目のピッツァ、ビスマルク。一般的なビスマルクがハムやベーコンでまとめるのに対し、ここでは近江牛のボロネーゼと内腿肉を重ね、さらにポルチーニの香りを加える。肉の旨味と脂の厚みが一段深く、構成は明らかにリッチだ。マルゲリータで示した基準を、肉で拡張する展開になっている。

ここで挟まれるのが、鰆と無農薬米を使ったリゾット。サスエ前田魚店の鰆は火を入れすぎず、米の甘みと野菜のブロードが全体を支える。ホワイトアスパラガスとブラウンマッシュルームのソースが加わり、ピッツァが続いた口を一度フラットに戻す。

続いて登場するのが、真鱈の白子のピッツァ。ピッツァに旬を組み込めるのは、コースで構成しているからこそだと素直に思う。白子のとろみを、生地と薪の熱が受け止め、下仁田葱の甘みが全体をつなぐ。季節の食材をどう料理に落とし込むか、その選択肢の中にピッツァが自然に含まれている。

肉料理は北海道産の熟成サーロイン。サカエヤらしい熟成で、赤身の旨味が前に出る。余計な装飾を排し、火入れの正確さで勝負する一皿。コース終盤に向けて、味の軸を一本に戻す存在だ。

締めはマリナーラ。トマトと生地、火の関係をもう一度シンプルに提示する一枚だ。そこにしっかりと主張するニンニクの存在感。甘みの奥に鋭さが走り、最後に薪の香りと重なる。最初のマルゲリータと自然に呼応しながら、より輪郭をはっきりさせて終わらせる。

デザートは紅はるかと放牧牛乳のジェラート。甘さは穏やかで、芋の輪郭が明確。

ピッツァはここでは料理の一部ではない。コースそのものだ。最初に提示し、途中で揺らし、最後に戻す。その往復を体験することに、この店の価値がある。単品では見えない流れがあり、その流れの中でこそピッツァが立ち上がる。構成そのものを味わう店だ。ご馳走様でした。

尾山台 山田
050-5590-8106
東京都世田谷区等々力4-12-14 1F
https://tabelog.com/tokyo/A1317/A131715/13284332/

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