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2026.02.02 夜

シンガポールでも、欲しいがちゃんとある@虎太郎

世界料理(アジア)

30000円〜49999円

★★★★☆

路地裏の薄明かりが滲む頃、吸い寄せられるように入った和の一軒『虎太郎』。シンガポールの街並みにふと現れるこの空間には、どこか懐かしさと安心感が漂っている。和食割烹という体裁ながら、そこにあるのは“決まった型”ではなく、“求められるものに応える”柔軟な空気。その背景には、料理人・石田氏の幅広いキャリアがある。博多の食文化を軸に、水炊きの「鶏金」、高級居酒屋「酔虎」などをシンガポールで手がけ、多彩なジャンルの現場も経験してきた。鉄板焼、餃子、韓国料理、スペイン料理…そのどれもが、今の皿の奥行きを支えている。

そんな石田氏の料理を前にすると、ふと頭に浮かぶのが、ドラマ『HERO』に登場する名物店主の姿だ。あの、どんな注文にも「あるよ」と返す男。ただ何でも出せるわけじゃない。相手の欲を読んで、その場に合うものを、すっと差し出す余裕があるからこそ成立する。「煮魚が欲しいな」「少しつまみたい」「締めに軽くご飯を」——そんなふわっとしたニーズに対して、的確な皿が出てくる安心感。それが『虎太郎』にはある。準備された正解ではなく、その場に応じた最適解。その力が、この店を確実に支えている。

「しじみ汁」白濁スープにしじみの旨味がじんわり溶け込む。食事の始まりにふさわしい、身体の奥から整える一椀。

「ポテトサラダ」じゃが芋の甘みと玉子のまろやかさに、トマトの酸味が軽やかなアクセント。シンプルながら記憶に残る。

「胡麻カンパチ」濃厚な胡麻ダレが脂の乗ったカンパチに絡み、刻み海苔と薬味が香りを重ねる。王道の一皿に確かな冴え。

「がめ煮」根菜と鶏肉に出汁がしっかり染み込み、福岡らしさがにじむ滋味。やさしさと芯の強さが同居する。

「白子」とろける舌触りとポン酢のキレ、紅葉おろしの引き締めが絶妙なバランス。淡さの中に色気がある。

「南蛮漬け」揚げの香ばしさに甘酢が絡み、玉ねぎやピーマンのシャキ感がアクセント。温度差と食感の妙が光る。

「牛タン」薄切りの中に凝縮された旨味と脂の甘み。にんにくの香りと共に。

「しゃぶしゃぶ」しじみスープにくぐらせた和牛が舌の上でとろける。豆腐やキャベツなどとともに。

「唐揚げ定食」カリッとした衣とジューシーな肉汁のコントラスト。定食としての満足感が高く、きっと昼でも頼りになる存在。

「TKG(明太子付き)」卵黄と明太子、そこに出汁醤油を少し垂らせば、ここがシンガポールということを忘れる。

料理の派手さで惹きつけるわけでも、料理で目を奪うような演出はないし、意外性で驚かせようともしない。ただ、食べたいものが、食べたいときに、ちょうどいいかたちでそこにある。それこそが“あるよ”の本質だとしたら、『虎太郎』はまさにその精神を体現した店だ。博多の土台と多ジャンルの経験が、注文の一歩先を読む皿に変わる。しじみ汁も、ポテサラも、しゃぶしゃぶも、最後のTKGまでも、「それが欲しかった」と思わせる自然さで現れる。そのちょうどよさが、ここでは当たり前のように出てくる。そう、『虎太郎』には、“あるよ”が、ちゃんとあるのだ。ご馳走様です。

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