2026.01.18 昼 雑居ビルに潜むヒレカツ専門店@ とんかつ梛 とんかつ・揚げ物 渋谷・恵比寿・代官山 1000円〜2999円 ★★★☆☆ 道玄坂の喧騒、その象徴とも言えるマークシティの脇。人の流れから半歩外れた場所に、用途の判別がつきにくい雑居ビルが立っている。飲食店が入っていると知らなければ、まず足を踏み入れない類の建物だ。その上階、通路を抜けた先にあるのが『とんかつ梛』。店内はとんかつ屋の文脈とは少しズレていて、揚げ物の熱気よりもバーの名残を感じさせる静けさがある。カウンターの設えや照明、流れるジャズから察するに、おそらく間借り営業だろう。 創業は2025年。ヒレ肉専門という一点突破。厨房を預かるのは、ヒレカツの名物店として知られる「かつ吉」で16年修行を積んだ料理人だ。脂の派手さではなく、火入れで肉の旨さを組み立てる系譜。 「ひれかつ定食(180g)」。衣は白く、低温でじっくり揚げられたサクサク系。噛んだ瞬間に軽くほどけ、油の存在感は控えめだ。使われているのは岩中豚。火入れは、過剰な柔らかさを狙わず、弾力をきちんと残す設計。噛み進めるごとに繊維が素直にほどけ、タンパクで澄んだ旨味がじわりと広がる。ロースの脂で押すタイプとは、明確に別のベクトルにあるヒレカツだ。 ヒレという素材だけに、味変の存在が効いてくる。生山葵と塩で食べると、肉の甘みとミネラル感がくっきりと立ち上がる。青唐辛子味噌の薬味も良く、後味にキレを与え、単調さを防ぐ役割を果たす。ソースも用意されているが、主役はあくまで肉そのもの。順番を考えながら、味を組み立てていくのが楽しい。 定食としての完成度を底上げしているのが羽釜炊きのご飯だ。粒立ちが良く、艶があり、口に入れた瞬間に熱と香りが立つ。ヒレのタンパクな旨味を受け止める力があり、重さを感じさせない。揚げ物、ご飯、付け合わせまで含めて、全体のバランスがきちんと取れている。 『とんかつ梛』は、マークシティ脇の少し怪しいビルに潜む、ヒレカツの定食屋。「かつ吉」の系譜を引き継ぎながら、ヒレという素材を日常の定食として成立させている。ご馳走様でした。 — とんかつ梛東京都渋谷区宇田川町41-26 パピエビル 2Fhttps://tabelog.com/tokyo/A1303/A130301/13319750/