木場の住宅街に静かに佇むカウンターイタリアン『commedia』。2021年に開業。店を預かるのは、アロマフレスカ出身の山口大輔シェフ。全6席、厨房もワンオペ。コース一本のみで、仕込みは最小限、仕上げは基本目の前で完結。出来たてにしか出せない香りと温度、素材のタイミングに寄り添うための最小単位の設計。こだわりの生産者から届く確かな素材を、必要以上に触らず、必要な瞬間にだけ手をかける。その信頼と集中力が、皿にまっすぐ現れている。

その姿勢をさっそく示すのが「フォカッチャ」。オーブンから取り出される湯気と香ばしい香りが、コース開始の合図になる。表面はパリッと、中はもっちり。オリーブオイルと岩塩がしっかり効いていて、小麦の旨さをまっすぐに伝えてくる。焼き立てにしか出せない質感と温度。これだけで、この店が信じていることが伝わる。

「生ハムとサラミとブッラータ」は、八ヶ岳のクリスタルポークによる自家製生ハム、フランス産のコッパ、イタリア産のブッラータ。熟成の香り、塩気、脂の甘みのバランスが良い。

「ヤイトガツオのカルパッチョ」は、長野産の無農薬蕪、糸島レモン、赤ワインビネガー、十勝の山わさびを合わせたサラダ仕立て。厚めのカツオの赤身に、酸味と辛味のコントラストが加わり、しっかりした素材感がきちんと整理されて届く。

「ウニのジェノベーゼ」は、同店のコンセプトを象徴するような一皿。すり鉢で松の実、にんにく、バジルを丁寧にあたってソースを立ち上げる。その時点で、バジルの香りがカウンター中に立ち込めるほど強く、空間ごと持っていかれる。当然、口の中ではなおさら。粗めに刻まれたバジルが余計に香りを引き立て、そこにたっぷりのウニが重なる。磯の甘さ、青さ、オイルの艶やかさが一体となり、香りで食わせる料理に仕上がっている。作りたてだからこそ成立する温度と香りの重なり。

「毛蟹のタリオリーニ」は、北海道産の毛蟹とトマトだけで構成された一皿。しなやかな手打ち麺に蟹の甘みと旨味が絡みつき、蟹を食べている感覚に近い。構成のシンプルさと満足度の高さが比例している。

「白子とカラスミのラガーネ」は、ふぐの白子のねっとりとした甘みに、自家製カラスミの塩気。太めのラガーネの存在感が全体を支え、青ネギの香味が重さを和らげる。舌に残る旨味が長く、リズムの良さを感じる構成。

「帆立のリゾット」は、帆立のヒモからとった出汁で炊いた米に、蕪と菜の花を合わせたもの。素材の主張は控えめだが、出汁の輪郭ははっきりとしており、口に入れると青い香りがふわりと広がる。見た目にも青が印象的で、柔らかな苦味と香りが季節をすっと届けてくれる

肉料理は「菊池源吾牛のミスジ炭火焼き」。脂のキレが良く、表面の香ばしさと中心部のロゼのコントラストが見事。塩だけで仕上げるシンプルな構成だが、肉の質と火入れで十分成立する。付け合わせはルッコラセルバチコとクレソン。野菜の苦味が肉の甘みを引き立てる。

「アラビアータ」は、締めの一皿としての役割を担うパスタ。完熟トマトとパスタのみの潔い構成で、甘みと酸味の輪郭がはっきりと立つ。面白いのは量が選べる点。胃袋と相談しながら調整可能。ミトミえもんは30gで小さくまとめたが、隣の常連さんはしっかり150g。笑 人それぞれの締め方ができるのも、この一皿の価値。

締めのデザートは「パンナコッタと苺」。しっかりとバニラ香るパンナコッタに、苺の果実味あるソース。甘さに頼らず、余韻は軽やか。最後まで気を抜かない。

『commedia』は、全皿をその場で仕上げることに意味がある店。準備されたものでは出せない香り、熱、口当たりを、一皿ごとに丁寧に積み上げていく。山口シェフの集中力と手数が、料理そのものの説得力になっている。生産者の顔を思い浮かべながら、目の前の火と食材に向き合う。木場という静かな街の夜に、強く立ち上がる存在感。ご馳走様でした。
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commedia
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