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2025.12.26 夜

サステナブルのその先へ@nol

フレンチ

東京・日本橋

30000円〜49999円

★★★★☆

問屋街としての時間が流れる馬喰町に、輪郭のはっきりしたモダンな空間が現れる。無駄を削ぎ落とした設え、色数を抑えた内装、語りすぎない佇まい。そんな空間にあるのが、この街に静かに根を張る『nol』だ。この場所が明確に掲げるのは、サステナブルを越えたリジェネラティブというテーマ。環境への配慮を目的化するのではなく、食材の背景や循環を前提として料理の完成度を組み立てていく。その試みが机上で終わらないことは、ミシュランのグリーンスターという評価が静かに示している。

この思想を象徴的に示す一皿が「ゴミのスープ」だ。その日に使われた食材の根や葉、切れ端を乾燥させ、サイフォンで抽出し、味付けは塩のみ。だがこれは廃棄食材の再利用ではなく、そもそも「捨てる」という判断を料理の設計から外し、食材を使い切ることを前提に味を組み立てる試みだ。澄んだ一杯から立ち上がるのは、野菜の甘みや青さ、ほのかな苦味が重なった輪郭のある味わいで、理念の説明ではなく、料理としてこの店の姿勢を端的に伝えている。その他のコースの内容も1つずつ紹介していこう。

アミューズは三品。「平目 刺身仕立て」は、透明感のある身をそのまま味わわせる構成で、余計な装飾はない。噛み進めるほどに旨味が静かに広がり、この店がまず“引き算”から料理を始めていることを確認させる一皿だ。「鹿肉のカカオのパイ包み」は、鳥獣被害という背景を持つ鹿肉を、チョコレートを思わせるカカオのニュアンスで包み込む構成。重さに傾きがちな題材を、香ばしさとほろ苦さで軽やかにまとめ、添えられた「グリッシーニ」が食感のリズムを与えている。

「アオリイカ」は、身を薄く引き、秋野菜を重ねた一皿。ごまの香ばしさが全体の軸となり、酒粕とフロマージュブラン、魚醤が静かにコクを補う。軽やかな口当たりの奥に、発酵由来の旨味がきちんと残る構成だ。

相模湾 の「キハダマグロ」は昆布塩でマリネし、ローゼルソースの酸味と山椒オイルの清涼感で輪郭を描く。聖護院蕪のピクルス、紫蘇、海ぶどうが加わることで、味わいが単線的にならず、余韻が立体的に続いていく。素材の良さに頼りすぎない設計が印象に残る。

「バターナッツ南瓜のアイスクリーム」は、甘さを抑えた穏やかなデザート仕立て。麹由来の柔らかなコクが南瓜の風味を包み込み、添えられた種が食感のアクセントとして効いてくる。

「チョウザメのフリット」は、キャビアで知られる素材の“身”に改めて光を当てた一皿。脇役として扱われがちな身を主役に据え、生ハムとキャビア、カリフラワーのピューレで旨味の輪郭を与える。淡白さを軽やかなフリットで引き出し、忘れられがちな部位に、きちんと料理としての命を吹き込んでいる。

「山形米のリゾット」は、玄米を用い、粒感をしっかりと残した仕立て。リゾットでありながら、蕎麦の実を思わせる食感が面白く、噛むほどに穀物の香ばしさが立ち上がる。そばの実とトリュフが香りの軸となり、仕上げに添えられたそばの実のフォームが全体を軽やかにまとめる。

魚のメインは「クロシビカマス」の炭火焼き。本来は深海に生息する魚でありながら、その身の魅力が十分に知られているとは言い難い素材だ。炭火で皮目を香ばしく焼き上げ、身はふっくらと仕上げ、バターコンフィとフェンネル、バターオイルで脂の輪郭を丁寧に整える。

続く愛媛産の「猪肉のロースト」は、ももとバラの二部位を使い分けた構成。もも肉は野性味を残しながらも過不足のない火入れで、バラは黒ビールのソースによってコクを補う。付け合わせの苺が酸味のアクセントとして機能し、重さに傾きがちな猪肉を最後まで心地よく食べさせる。

デザートは二皿構成。「ヨーグルトとフロマージュブラン」は、酸味と乳のコクを静かに重ねたシンプルな一皿。甘さを前に出すのではなく、口の中を整える役割に徹し、コース全体の流れを自然に次へとつなぐ。

締めは「月光百合根」。ほくりとした甘みを持つ百合根に、麹のキャラメルを添え、ハーブティーとともに供される。和の素材を無理に翻訳せず、そのままの輪郭で着地させる構成が心地いい。

『nol』は、サステナブルを越えたリジェネラティブという思想を持ったレストランだ。その考え方はスローガンではなく、料理として明確な説得力を伴って現れる。未評価な素材や部位を扱いながら、味わいは整理され、迷いがない。理念を語る前に、まず美味しい。その実感を通して、思想が自然と伝わってくる。ご馳走様でした。

nol
東京都中央区日本橋馬喰町2-2-1 DDD HOTEL 1F
https://tabelog.com/tokyo/A1302/A130204/13243462/

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