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2025.12.21 夜

薪と手で、森を料理する@MANO

世界料理(ヨーロッパ)

軽井沢・佐久

10000円〜29999円

★★★★☆

薪の香りが静かに立ち上がるカウンター、その火を正面に据えた流線型の空間で過ごす時間そのものが体験になる、自然と向き合う場所にある『MANO』。

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店名が意味するのは「手」。調理の手だけではなく、素材を取りに行く手、森に入り、獣と向き合い、土地に触れるための手だ。木の形を尊重した設え、削ぎ落とされた意匠、そのすべてが料理の思想と無理なく重なっている。一言で表すなら、ここは火と手でテロワールを翻訳する場所。

コースは「森のスープ」から始まる。熊の手を中心に据えたスープは、天然のきのこ、香茸を合わせ、ゼラチン質の強さが舌にまとわりつくようなとろみを生む。飲むというより、体の内側にゆっくりと入り込んでくる感覚。野性の強度を誇示するのではなく、時間と抽出の結果としての旨味を丁寧に提示してくる。

続く一皿は、コンビーフならぬ「corned bear」。保存と加工という人の知恵を介在させ、熊という素材をいったん日常語へと引き寄せる。マヨネーズには熊の脂を使い、キャベツの甘みと黒キャベツのパウダーが野性を輪郭づける。荒々しさはなく、構成はあくまで冷静だ。

「洋梨」は薪で焼き、ならの薪の香りを果実に吸着させる。赤ワインソース、塩、ブルーチーズのソースを添え、皮を残すことで食感と野性を担保する。チーズと梨の相性の良さを再確認させる構成。

「穴熊ねぎま」は九条ねぎと合わせ、脂の強さと甘みが前に出る。野性の輪郭が最も素直に現れる一串だ。

「グラニースミス アオリイカ」で一度トーンを落とす。果実の酸、菊芋のピュレの甘さ、薪の香りをまとった烏賊が媒介となり、味覚が横方向に広がる。野性一辺倒にならないための明確な制御がここにある。

コースの芯となるのが「熊脂水餃子」と「熊の手 モツ 白花豆」。熊の出汁と脂を重ね、ゼラチン質を核に据えた構成。黒文字のオイルが野性を足し算し、ワンタンの余韻が口内を支配する。後者はピメントンや豆の甘みを使い、煮込みという文法で文化的な“料理”として着地させている点が巧みだ。熊という素材の好みは分かれるかもしれないが、味の設計そのものは非常に理性的。

「根セロリ 岩魚いくら 桜スモーク」は、1時間しっかり燻した岩魚のいくらを主役に、根セロリのピュレと刻みで構成。食感を極限まで削ぎ落とし、味の変化と余韻で食べさせる。もみの香りが清涼感として立ち上がる。

「野鳥 木の実 カシス」では、薪で火入れした真鴨と、ももや首を叩き、くるみを混ぜてボール状に仕立てた2つの形。ソースの完成度が高く、薪火の香ばしさと脂の旨味をきれいにまとめ上げる。

後半の「Arroz con nabo y txangurro」は、森から海へと視点を引き戻す役割を担う一皿。出汁を吸い込んだ米はほどける寸前で止められ、上には蟹の脚身。その華やかさがまず目を引くが、本質はそこではない。鍋の中で静かに積み上げられた蕪と蟹の旨味、その出汁の厚みが全体を支配している。

「焼蜜柑」は口直しでありながら、スパイスを思わせる香りが残り、きちんと記憶に残る。

「胡桃だれうどん」はその見た目に驚くが、着想のユニークさだけでなく、味がきちんと成立しているのがこの店らしい。

甘味は「大人のプリン」。苦味を効かせたカラメル、乳の厚みを残したクリーム。だが、この一皿の面白さは甘さの設計よりも、その苦味の正体にある。カラメルに使われているのは、香茸を漬け込んだきのこのブランデーを煮切ったもの。森の香りをアルコールに移し、それをさらに火で削ぎ落とすことで、甘味の奥に静かな野性を忍ばせている。懐かしさに寄らず、物語を回収するためのデザートだ

このコースは、強さを見せるための料理ではない。素材に近づきすぎず、離れすぎず、その距離感を最後まで保っている。ジビエのクオリティに真摯に向き合い、テロワールを大切にしながらも創作性は高い。派手さではなく、編集力で魅せる構成。ここには、この場所でしか成立しない、手と火の料理体験がある。ご馳走様でした。

MANO
長野県北佐久郡軽井沢町発地553-3
https://tabelog.com/nagano/A2003/A200301/20027723/

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