2025.11.26 夜 京都の夜を支える、静かなる名手@酒亭 笹蔵 居酒屋・定食 京都市 5000円〜9999円 ★★★★☆ 烏丸御池の路地裏、杉玉が揺れる一角にひっそりと佇む『酒亭 笹蔵』。創業30年以上、京都で魚と酒を扱い続けてきた大将は今や70代後半。元寿司職人としての技と、利き酒師としての感覚。その両輪が生み出すのは、随所に工夫を忍ばせた味の仕掛け。長年のキャリアが導き出すユニークさがひと口ごとに奥行きを作っている。そのスタイルこそ「京都の夜を支える、静かなる名手」と呼びたくなる所以だ。 まず「生ダコ」。噛むとプリッと弾け、そのあとじわりと甘みが滲む。スダチがキュッと輪郭を整え、食感と香りが共鳴する瞬間がある。 鵡川産の「本ししゃも」は皮目の香ばしさが立ち、卵の旨みがふっくらと広がる。レモンを絞ったらもう日本酒の手が止まらない。 さらに「ポテトサラダ」。芋の甘みを丁寧に残した優しい味わいで、ほっと心が緩む。 ここから名物が三つ、畳みかけるように押し寄せてくる。 口火を切るのは、この日からスタートした「ペッパーくもこ」。塩と胡椒を軸にした潔い仕立てながら、最初は濃厚ミルキー、数秒遅れてスパイスが追いかけてくる二段構え。その変化に体が勝手に反応し、ひと口ごとに中毒性が増していく。 続く二品目は「サザエからあげ」。まずはそのまま香ばしさを楽しむ一度目、 次にバターと合わせてコクを深める二度目、最後にそのバター醤油をご飯に吸わせて三度目の到達点へ。 ひとつの食材で三段階の旨みの景色を描き切る、笹蔵の真骨頂とも言える構成力だ。 常連が黙って頼む裏メニュー的存在「素焼きそば」。味付けは“企業秘密”と大将が笑う一皿で、シンプルに見えてなぜか真似できない。炒め油の香り、麺の焼き目、隠し味の塩気や旨みが織り重なり、ふわっと立ち上がる香ばしさが食欲を一気にかき立てる。素の表情なのに奥行きがあり、気づけば箸が止まらなくなる魔性の焼きそばだ。 大将は今年77歳。それでも包丁のキレも味の勘も衰えを知らず、むしろ円熟の域にあるように感じる。創業1990年、変わらない店構えの奥で、日々の仕入れと経験が積み重なり、今日の一皿一皿につながっている。奇をてらわず、ただ素材と向き合い続けた結果が蔵の味。路地裏の酒場でありながら、京都の夜に確かな安心感を与えてくれる存在だ。ご馳走様でした。 — 酒亭 笹蔵075-252-3210京都府京都市中京区御池通間ノ町上ル高田町509-4https://tabelog.com/kyoto/A2601/A260202/26002593/