東京タワーを仰ぐ神谷町の一角、夜の静けさを纏いながら炭の香りをふわりと漂わせる『おみ乃 神谷町』。2017年に押上で誕生し、わずか2年でミシュランの星を獲得した『焼鳥 おみ乃』の流れを汲みながら、より“コースとしての焼鳥”を描くために生まれた一軒だ。店主・小美野正良氏は「鳥しき」での8年の修業を経て、自身の焼鳥観を研ぎ澄ませてきた人物。黒と木目が織りなすカウンター席は、焼鳥でありながらどこか割烹を思わせ、鶏を軸にした料理を堪能するための舞台となっている。

最初は「カルフラワーのムース」は、ふわふわと軽いムースを土佐酢のジュレがきりりと引き締め、これから串の世界へ入っていく舌を滑らかに整える役割を担う。ここからコースは炭火と季節の小皿を織り交ぜながら、穏やかなリズムで進む。

「つくね」は粗挽きと細挽きを巧みに混ぜ、噛むたびに肉汁がほどよく広がる仕上がり。香ばしい炭のニュアンスがちょうどよく背中を押す。

「海老芋」は外側を香ばしく、中は特有のねっとり感をしっかり残していて、串の合間の小休止としてちょうどいい存在感を放つ。

そして「砂肝」。噛めばコリッとした歯ざわりの奥から、じんわりと旨みが滲み出る。強い主張ではなく、素材の弾力と瑞々しさで静かに魅せる一本だった。

その後に「レーズンバターサンド」。焼き目の香ばしさをまとった生地に、レバーペーストのコク、バターのまろやかさ、レーズンの甘酸っぱさが重なる。

串に戻って「かしわ」。肉の中心をしっとり保ち、噛むほどに甘さが穏やかに広がる。

続く「うずら卵」は黄身がとろりと仕上がり、タレの甘みと自然に寄り添う。

「金時人参」は甘みの引き出し方が丁寧で、炭の香りがアクセントに。

胸肉の太巻きは、この日の流れの中で最も和食的な表情を見せた一品。胸肉の淡い旨みに海苔の香り、野菜の歯ざわりが重なる。静かで、品のある変化球。

「ハツ」はしっとりと火を入れ、噛むごとに血の旨みが穏やかに広がる。

続く温皿の「朴葉焼き」は、炭の熱で香りを立たせた朴葉の上に、ひと口大のチキンカツをそっとのせた構成。香ばしい衣に朴葉の香りがゆっくり移り、味噌のコクと野菜の甘みが重なりながら、一皿の中で柔らかな層をつくる。

コースの流れにふっと和の温度を差し込む存在だ。「ソリレス」は旨みの密度が高く、噛むほどにじわじわと味が伸びていく一本。希少部位らしい滋味の深さがしっかり感じられた。

後半の主役の1つは間違いなく「手羽先」。皮をパリッと香らせながら、中にはセリともち米を忍ばせ、まるできりたんぽの小さな断片を抱き込んだようなつくり。噛んだ瞬間にふっと鍋料理の温度が立ち上がる。焼鳥でありながら、温かい汁気の記憶がにじむ面白い一本だ。

「レバー」はとろりと滑らかで、クセを抑えた火入れが光る。濃厚さの中に軽さがあり、余韻が自然と続く。

「厚揚げ」は外の香ばしさと中の柔らかさが心地よく、薬味がそっと輪郭を整える。

「せせり」は弾力があり、脂のキレがよく、気づけばもう一口へと手が伸びてしまう仕上がりだった。

食事は「鶏五目ご飯」。鶏の旨みが米一粒ずつにしっとり染み込み、味噌汁と香の物とともにコースの終着点としてぴたりとハマる。

最後の甘味「かぼちゃのデザート」は、やさしい甘さにソースとクリームが重なり、ほっと肩の力が抜ける締めくくりだった。

通してみると、一本一本の焼きに確かな集中がありながら、コース全体はゆるやかに起伏を描く構成になっている。鶏という素材を軸に、串・温皿・揚げ物を織り交ぜていく流れは、焼鳥を“料理”として成立させるための工夫が随所に感じられるものだった。香りや火入れの差し引きの妙が積み重なり、最後にはすとんと腹に落ちる納得感が残る。『おみ乃 神谷町』は、焼鳥を食べに来たというより、鶏を中心としたコース料理を味わいに来たと感じさせる一軒だ。ご馳走様でした。
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おみ乃 神谷町
03-6403-1922
東京都港区虎ノ門3-17-1 TOKYU REIT虎ノ門ビル 104
https://tabelog.com/tokyo/A1307/A130704/13255846/