「おいしい」を、
すべての人に。

検索

2025.11.18 昼

太平寿しの経験を背に、積み上げた寿司のかたち@飛

寿司

金沢

10000円〜29999円

★★★★☆

金沢・尾山神社の裏路地、紫の暖簾が静かに揺れる『飛』。2016年の開店以来、この街の寿司好きたちに静かに浸透してきた一軒だ。握るのは、北陸寿司界の金字塔『太平寿し』で約25年、さらにホテル日航金沢の寿司カウンターで7年を過ごした飛地孝志大将。金沢の寿司を長く支えてきた職人が、この場所で自分の仕事を淡々と磨き続けている。暖簾をくぐると木の香りがふわりと立ち、凛とした空気の中に柔らかな温度が混ざる。飛地大将の所作は落ち着きがあり、かけられる言葉も自然体。静かな緊張感の奥に、職人の芯の強さと人柄の穏やかさがにじむ。

最初に添えられたのは「ゲソ」。軽く炙った香りがふっと立つだけの、静かな導入のひと口。余計な意図を感じさせず、自然にコースのスイッチが入る。

続く「鯖の棒鮨」は、脂の厚みがしっかり伝わる一品。噛むほどに旨味が広がり、柔らかな押し加減で身と米が心地よく寄り添う。奇をてらわずとも印象に残る鯖だ。

ここで登場する「クエ」は、皿の上でつまみとにぎりを同時に味わわせる構成。レモン塩をまとった方は、白身の厚みに爽やかな輪郭をつける“つまみ”の表情。対して醤油をまとわせた握りは、同じクエでも味の重心が変わり、旨味がすっと伸びていく。二つを並べて一度に体験させるこの見せ方が面白い。

「鯵」は葱と生姜を叩いた薬味を中心に置き、身に塩気をしっかりまとわせたつまみ仕立て。青魚の香りと薬味の辛味が自然に重なり、味がすっと決まる。

「鰻」は炭の香ばしさが立ち上がる一貫。余計な甘さに頼らず、焼きの力だけで旨さを引き寄せるタイプで、思わず頬がゆるむ。

「香箱」はこの日の大きな見せ場。甲羅盛りで旨味をしっかり味わわせつつ、外子を“そとこ寿し”に、味噌を添えた身を“ズワイガニ寿し”に仕立てるという構成が面白い。三角とハートが並ぶ盛りつけも愛嬌たっぷりで、皿全体が小さな物語になっている。

「鰤」は、つまみと握りの二様で魅せる。つまみは炙りとおろしを重ねて香ばしさと清涼感を併せ持たせ、握りになるとシャリが味の芯をすっとまとめる。ひとつの素材が、角度を変えるだけでまるで別物に見える。

「海鼠腸と烏賊」は、小鉢の中で甘みと塩気が寄り添うひと品。烏賊の柔らかな甘みに海鼠腸の濃い塩気が重なり、最後に器に残る海鼠腸をシャリで拾わせる流れが心地よい締まりを生む。

ここで噴火湾の「赤身ヅケ」が登場。照りに品があり、煮切りの甘みとシャリの甘さが一つの方向へ伸びていく。

流れに続く「マトウダイの昆布締め」がひと呼吸を作る。昆布の旨味がうっすらと身に移り、甘みが静かに膨らむ。 

「のどぐろ」の蒸しは、太平寿し譲りのスペシャリテ。余計な細工に頼らず、しっとりと入った火と、ほどける脂、高めのシャリの温度だけで勝負してくる。華美な演出はいらない、素材の力がそのまま成立している一口。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: IMG_01722.jpg

もう一皿は、まかない飯を原点にしたのどぐろ。身を細かく刻み、薬味でふわりとまとめた素朴な構成。噛むほどに脂と香りがゆっくり広がり、蒸しとは違う角度からのどぐろの良さが素直に見えてくる。

噴火湾の「大トロ」は、舌に触れた瞬間から脂がゆっくりほどけていき、甘みと旨みが自然に広がる。重さを感じさせない滑らかさで、そのまま静かに消えていく心地よさがある。

「甘海老」は、ねっとりとした甘さが真っ直ぐに立ち上がる一貫。上に添えた卵がぷちりと小さく弾け、ほんのりした塩気が甘みの輪郭をそっと整える。

巻物で供された「干瓢」は、ほんのり甘く、噛むほどに旨みが滲む仕上がり。海苔の香りとシャリのほどけ方が素直に寄り添い、最後の一手としてきっちり決まる。

「だし巻き卵」は、ふわりとした柔らかさの中に出汁の香りがやさしく広がる。甘さを立て過ぎず、余韻に自然な旨みを残すタイプで、寿司の流れを穏やかに締めくくってくれる。

コースを終えて思うのは、飛地大将の長いキャリアが、この店の仕事にそのまま結実しているということだ。太平寿しで磨いた技術と感覚、ホテルのカウンターで培った接客の間合い。そのどれもが誇張されることなく、ごく自然に一貫一貫へ流れ込んでいく。金沢で積み上げた職人仕事を味わいたいなら、間違いなく1つの選択肢になるだろう。ご馳走様でした。


076-255-2768
石川県金沢市尾山町12-5
https://tabelog.com/ishikawa/A1701/A170101/17010234/

エリア

ジャンル

価格帯

評価

月別アーカイブ