2024年、池下へ店を構えた『とんかつ 土本』。間借りの時代を経て、ようやく自分たちのやりたいことをそのまま形にできる環境が整った、そんな空気がある。メニューに並ぶ銘柄豚の選び方、ご飯や豚汁、調味料の設計にまで、そのこだわりが伝わってくる。細部にまで目が行き届いた仕事が、全体の印象をぐっと引き締めているのだ。

提供まで少し時間がかかるとのことで、逸品料理を先に。それが名物である「白い角煮」。しっとりとした肉質に驚くほど軽やかな脂、そこへおろしの清涼感とネギの歯ざわりが重なり、柚子胡椒がキレ良く全体をまとめる。角煮という名前を借りながら、まったく重たさのない、豚の旨みだけがすっと立ち上がる仕立て。待ち時間ですら、この店のこだわりを味わう時間に変えてしまう。

日替わりで登場する銘柄豚の顔ぶれが、この店のこだわりをよく表している。扱う銘柄の幅は広く、その日によってロースとヒレの種類が変わっていく。「今日はどんな豚と出会えるのか」というワクワクが生まれるし、それぞれの特徴を店主が丁寧に説明してくれる。脂の質や香り、赤身の味わいの違いなど、聞けば聞くほど選ぶのが難しくなる。そんな嬉しい迷いすら、この店の魅力の一つだ。

まずはロースから。この日は三右衛門のロースを選んだが、これが実に見事。脂と赤身のバランスがよく、噛んだ瞬間から甘みがふわりと広がる。低温で火を入れているから、赤身にはしっとりとしたみずみずしさが残り、脂の香りと調和して立体的な旨みを描く。淡い衣は驚くほど軽く、肉の輪郭を邪魔しない。まさに“良い豚を、良い揚げ方で食べさせる”という意図がそのまま形になった一枚だ。

続くヒレは、贅豚(ZEITON)。こちらはロースとはまた違う衝撃がある。まず、とにかく柔らかい。歯を立てた瞬間にすっとほどけていき、赤身の旨みが静かに広がる。ヒレらしい軽さを残しつつ、薄い膜の向こう側にあるような繊細なコクがあって、気がつけばもう一切れ、と手が伸びてしまう。ロースの華やかさに対して、ヒレはしなやかで上品な余韻。

そして、とんかつを支える脇役たちがまた強い。調味料はどれも“肉の表情を変えるため”に用意されていて、昆布塩に七味を合わせた香りの厚み、わさびをわさび塩として出す工夫など、どれも丁寧に設計されている。一口ごとに違う角度から豚が立ち上がってくる感覚がある。さらに、ご飯はつやつやと粒が立ち、噛むほどに甘みが広がる理想的な炊き上がり。豚汁は具材の豚がしっかり存在感を持ち、味噌と豚の旨みがまっすぐに響く。

どの皿にも、そしてどの脇役にも、一貫して流れる“豚をどうおいしく届けるか”という意志。その軸がぶれないからこそ、一つひとつの料理が芯を持って響いてくる。独立して環境が整ったことで、この店が本来やりたかったことがようやく真っ直ぐに表現されているのだろう。名古屋でとんかつを語るうえで、この場所はこれから確実に存在感を増していくはずだ。ご馳走様でした。
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とんかつ 土本
050-5456-1283
愛知県名古屋市千種区池下1-3-1 パックス池下 1F
https://tabelog.com/aichi/A2301/A230106/23088774/