横浜・日本大通りの半地下に、炭の音が静かに響く。『焼鳥うかじ』。この街で生まれ育った宇梶晃平が、修業を重ねた末に帰ってきた。大阪の名店『鳥匠いし井』で基礎を叩き込まれ、東京の『鳥匠いし井 ひな』では焼き手を務めた実力派。頑固で真っすぐ、その姿勢は今も変わらない。自らの名を冠した店名がすべてを物語る。余計な飾りはない。カウンターの向こうで、ただ黙々と火と鶏に向き合う。

スタートの一品は「鶏出汁の茶碗蒸し」。具材は一切なし、出汁と卵だけの構成。湯気の中に鶏の香りがふわりと立ち上がり、スプーンを入れると、なめらかな層がとろりと崩れる。じっくりとした旨味、じんわりとした余韻。まだワンオペ体制という事情もあるのだろうが、かえってそれがこの店の“鶏と真っすぐ向き合う姿勢”を象徴しているよう。派手さはなく、ただ静かにうまい。これから続く串の力強さを予感させる。

串のスタートは「抱き身」。ここからが本編だ。使用するのは熊本の地鶏・天草大王。肉厚で筋肉質でありながらしっとりとした繊維質。その力強い肉質を、強火の直火で一気に焼き上げ、中心に熱を抱かせる。噛みしめるほどに肉汁が溢れ、脂の甘みと香ばしさが重なり合う。一本目から鶏の旨味の強さをプレゼンする構成。これは石井流の特徴であり、まずこの鶏にはこんな力があると伝えるための導入だ。

「砂肝」はコリコリとした歯応えが心地よく、塩の粒が香りを引き立てる。

「銀杏」は香ばしさとほろ苦さが交差し、肉の合間にちょうどいい清涼剤。

「おたふく」は弾力と粘りを兼ね備えた独特の食感が特徴。

「手羽中」は燻香を纏わせ、天草大王特有の脂の甘みを香りで包み込む。

「肝のオイル煮」は低温でじっくりと火を入れ、雑味を抜いてピュアなコクだけを残す。

「大なめこ」は、ぬめりが全体に潤いを与える存在。香ばしい串の合間に挟むと、焼きの熱をやわらげるように働く。

「ねぎま」は葱の辛味と肉汁がぶつかり合い、旨味が一段階深まる。

「胸肉の生春巻き」は水耕栽培の野菜の清涼感で、空気が一度リセットされる。

「ぼんじり」は外カリ中トロの黄金バランスで、脂の甘みが弾ける瞬間を逃さない。

「ちょうちん」は、笑顔と共に差し出される一本。黄身の濃厚な甘みとタレの照りが絡み合い、視覚的にも味覚的にも一つの見せ場になっている。このプレゼンテーションもまた「いし井」流。味だけでなく、空気を少し柔らかくする一本だ。

「つくね」は、タレの風味が印象的。

「せせり」は筋肉の弾力が心地よく、噛むたびに味が濃くなる。

「ささ身」は中心をギリギリで止め、余熱で滑らかに仕上げる。火入れの精度がすべてを物語る。

締めは「親子丼」と「鶏スープ」。親子丼は、出汁をたっぷりと含んだ“つゆだく”仕立て。とろりとした卵の中に鶏の香りが広がり、米一粒一粒が旨味を吸い上げている。濃すぎず、軽やかで、最後まで鶏の香りが支配する構成。

添えられる「鶏スープ」は透き通る金色。香りは穏やかだが、旨味は分厚く、飲み干すと体の芯まで温まる。最初の茶碗蒸しから最後の一杯まで、鶏一色で完結させる。

私事だが、宇梶は『鳥匠いし井 ひな』で大将を務めたくれた卒業生。オーナーとして一緒に過ごした当時は、頑固さから周囲と衝突することもあった。だが、それもまた彼らしい真剣さの表れだったのだろう。この日は、師である石井大将とともに訪問。きっとミトミえもん以上に胸にくるものがあったに違いない。紆余曲折を経てたどり着いた独立。その一歩に、確かな意味を感じた。ご馳走様でした。
—
焼鳥うかじ
045-307-3176
神奈川県横浜市中区山下町74-6 ロクマルビル B1
https://tabelog.com/kanagawa/A1401/A140104/14101117/