2025.11.08 昼 静けさの中に立ち上がる、蕎麦の香り@静けさの中に立ち上がる、蕎麦の香り そば 水戸・笠間 1000円〜2999円 ★★★★☆ 茨城・ひたちなかの住宅街に、蕎麦にすべてを捧げる一軒『木挽庵』がある。創業は1992年。玄関には「携帯電話の使用はご遠慮ください」「帽子は脱いでください」など、いくつもの貼り紙が並び、自然と背筋が伸びる。それでも、暖簾をくぐればただの堅苦しさではないことがすぐにわかる。店内には凛とした静けさが漂い、ご夫婦は多くを語らないが、その所作からは確かな温かみがにじむ。過剰なサービスはない。けれど、丁寧さと静かな気配りが店全体を満たしている。 注文したのは「天ぷらせいろ」。 最初に蕎麦の香りがふわりと立ち上がる。細くも太くもない、やや幅広で落ち着いた輪郭の麺。コシで押すタイプではなく、噛みしめるほどにじんわりと香りが広がり、舌に残る余韻が深い。割合は明記されていないが、蕎麦粉を割合が高そうな、力強い風味。水切りもきっちりされ、口当たりに嫌味がない。 つゆは潔く、キリッと辛口。甘さを極力抑え、鰹の風味がはっきりと立っている。蕎麦の香りに負けない土台の強さがありながら、あくまで脇役に徹している。出しゃばらず、でも芯がある。そんな味の立ち方が印象的だった。 天ぷらがまた見事だった。なかでも目を奪われたのが「舞茸」。ひと口サイズとは無縁の、まるで“群れごと”揚げたような大ぶりの塊。衣の中から立ち上る香りの濃さに、思わず顔がほころぶ。ザクッと割れば、瑞々しい茸の旨みが一気に押し寄せる。そして「むかご」や「れんこん」といった素朴な素材たち。どれも主張が強すぎないのに、噛むほどに味がある。地元のテロワールとしっかり紐づいた素材選びなのだろう。派手ではないが、静かな個性が立ち上がる。茄子やえびなどの定番もしっかり押さえ、天ぷら単体でも満足度の高い構成だった。 食後は、とろりとした白濁の「蕎麦湯」で静かにフィニッシュ。しっかりとした濃度があり、蕎麦の滋味を最後の一滴まで味わわせてくれる。 『木挽庵』は、華美な仕掛けも演出もない。ただひたすらに、蕎麦と素材、時間と向き合っている。貼り紙は多い。でも、その背景には丁寧な営みと静けさへの敬意がある。黙って蕎麦をすする。それだけで、十分に豊かになれる店だ。 ご馳走様でした。 — 木挽庵029-274-0986茨城県ひたちなか市東石川3069-14https://tabelog.com/ibaraki/A0801/A080102/8000290/