天満橋の静かな通りに、凛とした佇まいのフレンチがある。2017年、吉田徹シェフが立ち上げた『ORIGIN』。店名の通り“原点”に立ち返ることをテーマに、素材や季節、土地の記憶を一皿に落とし込む。石壁と木の温もりを生かした空間は、無駄のない静けさに満ち、料理への集中を自然と促してくれる。シェフは愛媛県出身。国内で経験を積んだのち渡仏。南仏ニースやパリで研鑽を重ね、スーシェフとしても活躍。帰国後、フランスで培った技術と感性を自らの言葉で表現する場として『ORIGIN』を創業。クラシックを理解した上で、その型を自らの感性で再構築する姿勢に、この店の真髄がある。

最初の一皿は、「木の子のフラン」と「秋刀魚のタルト」 。前者は滑らかな食感と深い香りが重なる。表面を覆う木の子のソースには、刻んだ茸が浮かび、強い旨みを感じさせる。後者は、香ばしい皮目とナスのピューレの甘みが織りなす秋のハーモニー。脂の旨味をタルト生地が上品に受け止め、余韻にほのかな苦味を残す。

続く「馬肉のタルタルと牡蠣」は、陸と海の旨味がぶつかり合いながらも、ケッパーとオリーブオイルの酸で美しくまとまる。素材の力を素直に信じた構成が清々しい。

「ズワイガニ」は、ほぐし身の甘みを透明感あるジュレで包み込み、余韻に蟹の香りが長く残る。素材の香りを最大限に引き出しながら、主張しすぎない仕立てが見事。

そして、「松茸と鰆」 。炙りとフレッシュの組み合わせで香りと旨味の役割分担。下にはレア火入れの鰆、ヨーグルトの酸と西洋山葵がきゅっと全体を締める。軽やかに始まり、余韻だけ秋が深い。

魚料理は「白甘鯛」。愛媛産の白甘鯛は淡白に仕上げ、鱗を香ばしく焼いて香りの輪郭を際立たせる。濃厚な魚介のスープ・ド・ポワソンに浮かべることで皿が完成。ニョッキは口に入れた瞬間とろけ、香り、食感、温度が一瞬で調和する。

肉料理は「頬肉の煮込み」と「豊岡鹿のポワレ」。前者は豆乳をベースに、ひよこ豆や落花生の滋味が重なり、ほっとする優しさを持つ。

一方で、鹿のポワレはフォアグラのソテー、イチジク、カボチャ、パンチェッタ、チーズを組み合わせ、甘味と塩味、野性と洗練のバランスを見事に描き出す。

この夜、合わせたワインは1990年の「サヴィニ・レ・ボーヌ・プルミエ・クリュ・レ・ラヴィエール」。熟成ブルゴーニュの静かな酸と枯れ葉のような香りが、料理の余韻と重なり合う。時を経たワインが語る円熟のニュアンスが、『ORIGIN』の穏やかで深い世界と共鳴していた。

全体を通して、素材に向き合う誠実さと、表現を絞り込む覚悟が感じられる。クラシックとモダンの美しい調和。音を立てずに心を動かすフレンチだ。「ORIGIN」という名から、古典への回帰を想像していた。だがこの“原点”は、過去に戻ることではなく、今この瞬間の自分に立ち返ること。素材への信頼、火入れの誠実さ、余白を恐れない表現。そのすべてが未来へと向かうエネルギーに変わっている。まもなく東京へと舞台を移すという。関西で培った原点が、新しい土地でどんな花を咲かせるのか。その続きを、次は東京で見届けたい。ご馳走様でした。