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2025.10.08 夜

名匠の原点、アラカルトに宿る大阪割烹の魂@島之内 一陽

日本料理

大阪市

10000円〜29999円

★★★★☆

大阪・島之内、細い路地裏にひっそりと灯りをともす『島之内 一陽』。創業は2002年、すでに20年以上の歴史を重ねる割烹である。アラカルト中心の柔軟なスタイルは、客のその日の気分と季節の移ろいを自然に結びつけるための仕掛け。堅苦しさのない、しかし芯の通った大人の空気がここには流れている。

興味深いのは、この店が名料理人を生む場所としても知られている点だ。北新地の名割烹「纐纈(こうけつ)」の欣樹氏も、この一陽で十年近く修業を重ねたという。つまり、この場所は料理人たちの基礎を磨く修業の場であり、同時に感性の芽吹く場所でもある。そんな背景を思うと、一皿ごとの静かな佇まいの中にも、確かな矜持と系譜の重みを感じずにはいられない。

口火を切るのはお通しの「野菜の白和え」。しっとりとした胡麻の香りに、ほのかな甘みと野菜の歯ざわり。人参やほうれん草の彩りが優しく舌を包み、菊花の苦味が余韻を締める。何気ないようでいて、塩加減と旨味のバランスが絶妙。最初の一口から、手仕事の温度が伝わる。

「自家製するめいかの沖漬け」は、二種の表情で登場。片方は柚子胡椒の爽やかさ、もう片方はイカ墨のコク。味の濃淡を巧みに対比させ、ひと口ごとに酒を誘う。ねっとりとした旨味の中に清涼感が走る、練りに練られたバランス。

「お造り盛り合わせ」は、炙りカツオの香ばしさ、アジの瑞々しい脂、マグロの赤身の力強さ。白身にはなめろう風の薬味がのり、味わいの層を深める。紫蘇の花が彩りを添え、皿全体に凛とした品格が漂う。

「アボカドとえびのわさびネーズサラダ」は、遊び心のある一品。まろやかさの奥にツンとした山葵が香り、えびの甘さとアボカドのコクが重なる。黒胡椒の刺激がアクセントになり、思わず箸が止まらない。

「三河うなぎ白焼」は、香ばしさの極み。わさびの辛味、海苔の香り、そしてふっくらとした身の甘さ。噛みしめるほどに脂が広がり、余韻は清らか。素材の力を信じ、余計な手を加えない潔さが光る。

秋の風物詩「さんま松茸はさみ焼」。秋刀魚の脂と松茸の香りが互いを引き立て、まるで秋の森を口に含むような芳醇さ。焼きの香ばしさが鼻を抜け、食欲の奥を刺激する。

「天然香茸天ぷら」は、衣を割る瞬間に立ちのぼる香りがまさに芳香の爆弾。野性的な香茸の旨味が舌の奥に響く。素材の力を一滴も逃さぬ揚げの技術、まさに職人芸。

締めの「ドライカレー温玉のせ」は、一陽らしい肩の力の抜けた一品。スパイスの香りが立ちながら、辛味よりも旨味に焦点を絞った構成。温玉を崩せば全体がまろやかにまとまり、和食の流れを崩さぬ見事な余韻。思わず無言で食べ進め、気づけば完食。

そして、この店をさらに心地よくするのが、接客の距離感。付かず離れず、程よい間合い。静けさを壊さず、必要な時にはさりげなく声が届く。まるで老舗旅館のような余裕がそこにある。二十年の歳月を重ね、数々の料理人を育て上げてきたお店。大阪の食文化を静かに支え続けるこの場所は、大人の隠れ家と称するに相応しい。ご馳走様でした。

島之内 一陽
06-6212-5678
大阪府大阪市中央区島之内2-11-20 吉富マンション 1F
https://tabelog.com/osaka/A2701/A270202/27000387/

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