代々木の洋館を舞台に、シェフズテーブルで繰り広げられる中華『トーキョー シノワ 神子』。クラシカルな洋館の趣と、目の前で繰り広げられる臨場感あふれるライブ感。そのギャップもまたこの店の魅力の1つだろう。オーナーシェフは神子健。「赤坂四川飯店」で研鑽を積み、四川を基盤に中国各地で幅広く学んだ実力者。都内ホテルで中国料理部門を立ち上げた経験も持ち、2017年に代々木で自身の店をオープン。伝統を背負いつつも、そこにイノベーティブな発想を重ねていくのが彼のスタイルだ。

コースの幕開けは「真紅のルビークラゲ」。赤酢と柘榴で鮮やかに染め上げられたクラゲは、ガラス細工のように艶やか。口に含めば、最初にくるのは赤酢のシャープな酸味。そのあとに柘榴の甘みがふわりと広がり、最後はクラゲ特有のぷるりとした食感が心地よいリズムを刻む。

次に登場する「大根餅」。外側はこんがりと香ばしく焼き上げられ、箸を入れるともちっとした弾力が返ってくる。そこに添えられるのは、生の帆立から仕立てた特製XO醤。ひと口ごとに帆立の甘みと深いコクが広がり、素朴な餅の中に贅沢な旨味が重なる、この店らしい遊び心あふれる一皿だ。

続いて「よだれ鶏」。神子のスペシャリテのひとつでもあるこの料理は、しっとりと蒸し上げた鶏肉に、香り高いラー油と山椒の刺激を効かせた特製ソースを纏わせる。口に含めば肉の旨味とスパイスの香りが一斉に弾け、辛さの奥に潜む酸味と甘味が味わいを整える。シンプルな四川料理だからこそ、これまでの研鑽や経験がそのまま皿に現れる。

「スープ」は、香ばしさとコクを土台にした一杯。そこに16種もの香辛料が重なり合い、桜エビの香ばしさ、金華ハムの旨味、黒米の滋味、とうもろこしの甘みが層を成していく。椀から立ち上る香りは複雑でありながら調和が取れていて、ひと口含めば鼻腔を駆け抜ける香りと、舌に残るクリアな旨味。

魚介料理では「鰻」が登場。ふっくらと焼き上げた鰻にまとわせるのは、丸みのある酸味を持つ甘酢ソース。さらに上には赤玉ねぎのシャキッとした辛味、新生姜の爽快さ、発酵唐辛子の奥深い辛味が重ねられる。鰻の脂をすっきりと導きながら、噛むごとに異なるニュアンスが顔を出す構成だ。そして添えられる子持ち昆布の揚げ物。プチプチとした食感と力強い旨味がユニークな存在感を放つ。

点心の「気仙沼産ふかひれとズワイガニのあんかけ小籠包」は、皮を割った瞬間に立ち上る香りからして別格。餡の濃厚さを生海苔の香りが包み込み、海の深みを加える。ひと口で贅沢を頬張るような体験で、余韻は驚くほど軽やか。小籠包のイメージを更新してくれる。

肉料理は「黒毛和牛 かいのみ 生唐辛子と黒胡椒のソース」。赤身の甘味がじんわりと広がるタイミングで、黒胡椒の刺激が鮮烈に走る。生唐辛子の辛味がさらに後押しし、肉の旨味を一段と引き立てる。全粒粉の蒸しパンがその余韻を優しく吸い込み、最後までバランスよく楽しませてくれる。

そして「黒毛和牛の麻婆豆腐」。四川を軸とするこの店の矜持が最も明確に現れた一皿だ。花椒の痺れが舌を痺れさせ、唐辛子の辛味が全体を覆う。その中で肉の旨味がしっかりと主張し、濃厚ながらも立体感を保っている。気づけば白飯が消えている。

デザートは「特製デザート 烏龍茶アイス」。口に入れた瞬間、ふわりと香るのは焙煎香。ほろ苦さが甘みを引き締め、食後の余韻を落ち着かせる。最後にお茶の余韻が鼻に抜け、静かな幕引きとなる。

『トーキョー シノワ 神子』の料理は、四川を核に据えながらも、多彩な食材や技法を重ね合わせることで奥行きを生み出す。ひと皿ごとに異なる表情を持ちながら、全体の流れは見事に整理されていて、食後に残るのは心地よい充足感。洋館という舞台装置とシェフズテーブルの臨場感が、その完成度をさらに高めている。代々木で、中華の新しい可能性を確かめたくなる一軒。ご馳走様でした。
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TOKYO CHINOIS 神子
03-6316-5388
東京都渋谷区千駄ヶ谷5-30-10 MEPOⅡ 1F
https://tabelog.com/tokyo/A1304/A130403/13211578/