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2025.09.09 夜

独学の自由と知識が織りなす、秋の中華@魔都 MATO

中華料理

大阪市

10000円〜29999円

★★★★☆

路地裏のカウンターにひっそりと息づく『魔都 MATO』。名の通り、上海をルーツにした料理から始まったらしいが、いまや中国全土に眼差しを広げる独学の料理人の舞台だ。独学と聞くと荒削りを想像するかもしれないが、ここには奇抜さよりも「優しい説得力」がある。薬膳や茶のエッセンスを巧みに織り込み、身体が自然に受け入れるバランスの良さ。個性は強烈なのに、舌には丸みを帯びた安心感が残る。

この日のテーマは「秋収」。中国最古の医学書『黄帝内経』に記された四季の循環を下敷きにし、秋は「肺を養う季節」との思想を盛り込む。梨や百合根、なつめといった食材が要所に登場し、季節と身体をつなぐ役割を果たしていた。料理は薬膳的でありながらも堅苦しさはなく、むしろ自由に伸びやか。完全な独学ゆえの奔放さと、深い知識に裏打ちされた必然性が同居している。

まず「牛肉梨子羹」。牛の旨みの強さが主役になりつつ、全体のアウトプットは驚くほど優しく涼しげ。セロリのシャキッとした食感と、とろみのある餡のなめらかさがリズムを刻み、食感のコントラストが心地よい。そこに梨の自然な甘みや西洋由来のオーツ、ハトムギの穀物感が寄り添い、独自のバランス感覚を持った一杯に仕上がっている。

「梨攬蝦」は、1792年に文人が残した美食書からヒントを得た一皿。出会うはずのなかった梨と海老、その意外性こそが“初恋”の所以だ。低温調理の車海老はしなやかな甘みを湛え、みずみずしい梨が清涼な風を吹き込む。土台を支えるのは桜海老の出汁のソース、さらに車海老の味噌と梨を合わせたソースが加わり、甘さと旨みを重ねていく。互いに異質なもの同士が引き寄せられ、初めて出会った瞬間のときめきをそのまま皿の上に映し出したような料理だった。

「蜜汁叉焼」は香港の伝統的な定番料理をベースにした一皿。甘やかで濃厚な味わいに仕上げつつ、ここでは焦がし林檎のソースを添えることで秋のニュアンスを加えている。叉焼そのものの力強さに、林檎の軽やかな甘酸っぱさと柚子の香りが差し込み、重さを逃がしながら余韻を整えていく。まさに伝統のど真ん中に、季節という個性を重ねた一皿だ。

「麻油汽鍋鶏湯」は雲南の伝統、汽鍋で仕上げる蒸しスープ。水を一滴も加えず、鶏と生薬のエッセンスだけを抽出するが、その味わいは想像以上に力強い。麻油のコクが全体を支え、生姜のニュアンスがぐっと前に出て、体を芯から温めてくれる。優しさというよりは、滋養をしっかりと注ぎ込むような迫力ある一椀だ。

「蟹味燜飯」は上海の炊き込みご飯をリゾットに仕立てた一皿。蟹の旨みをたっぷり含んだ米粒に、塩卵黄のコクと南瓜の柔らかな甘みが寄り添う。濃厚で包容力のある味わいだが、そこに甘酢に漬けた生姜が差し込まれることで、印象が一転。甘さとコクにリズムを与え、口の中を軽やかに整えていく。

「蜜瓜冷湯」は旬のメロンをベースにした冷製スープ。果実の瑞々しい甘さが広がる一方で、鉄観音の渋みがその輪郭を引き締め、金木犀の香りが余韻を華やかに彩る。夏から秋へと静かに移ろう季節の空気感を、舌の上で感じさせてくれる。

「酸梅鴨」は広東の伝統に根ざした鴨のロースト。しっとり火入れされた鴨に、和歌山の紀州梅と高梅を使った酸梅ソースを重ねている。濃厚な旨みに梅の酸味とほのかな甘みが差し込み、重さを和らげながら奥行きを広げる。添えられた瓜には香味野菜が仕込まれ、食感と香りのリズムが全体を軽やかに仕上げていた。

「嗜味善鰻魚」は雲南地方の蒸し料理をアレンジした一皿。鰻をふっくらと蒸し上げ、仕上げに雲南ニンニクと唐辛子を効かせたソースをまとわせる。鰻の脂の甘みとソースの酸辛が折り重なり、旨みがぐっと深く広がる。蒸すというシンプルな技法の中に、発酵調味料の重層感が響き、静かな余韻を残す料理だった。

「梅干菜茹茸素面」は清代の精進料理にルーツを持つ一皿。うどんに似た素麺に、梅干菜の深い香りとキノコの豊かな旨みを重ねている。仕上げにフレッシュなマッシュルームを添えることで、乾いた旨みと瑞々しい香りのコントラストが際立つ。歴史の重みを背負いながらも、現代的な軽やかさでまとめあげた。

「七白小骨梨湯」は北京伝統の薬膳を現代的に再構成した締めの甘味。小骨梨を柔らかく煮含め、“七つの白”と呼ばれる百合根や蓮の実、白きくらげなどを重ねて仕立てている。梨の優しい甘みに薬膳の滋味が溶け込み、体に静かな潤いを与えてくれる。

さらに茶を合わせることで、香りと渋みが甘さを引き締め、食後の余韻をより深く整える。甘味でありながら薬膳のスープでもあるような、境界を曖昧にする一皿一盃だった。

シェフは完全なる独学者。しかしその知識とネットワークは驚くほど広く、独学という枠を軽やかに飛び越えている。だからこそ、ここでしか出会えない料理が生まれる。薬膳の優しさ、上海を起点に広がる中国全土の記憶、そして茶との緻密なペアリング。そのすべてが一貫した世界観に収束していく。ここでの体験は、単なる食事ではない。味わいに加え、季節や身体、歴史までもが一つの食卓に集まる。独学ゆえの自由と知性が交錯する時間は、間違いなく心に残る。

ご馳走様でした。

魔都 MATO
大阪府大阪市北区天満3-11-7 えびすビル 2F
https://tabelog.com/osaka/A2701/A270103/27139972/

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